5主人公×ルセリナ 著者:7_339様

 それは、ゴドウィンが新女王としてリムスレーア様が親征という名目で王子軍と対峙することになったときのこと――私達にとってみれば、それはリムスレーア様の奪還作戦――でのことでした。
 私達の主であり、また星でもある殿下。その明るい、希望に満ちた頼もしい顔はまるで見ることが出来ず、反対に、直視することが出来ないほどに苦悩と悲嘆に満ちたものが殿下の顔には張り付いてしまっていました。理由はいくつか考えられます。
 一つは、殿下の妹君であるリムスレーア様を奪還出来なかったこと。これでまた戦が長引き、無用な血が流れることを、殿下は悲しんでおられるのでした。
 そして、それに付随して、というよりそのことの原因にもなったこと――殿下の叔母君であり、私達の味方であったサイアリーズ様の裏切り、でした。それを聞いたとき、ここの誰もが耳を疑ったでしょう。
 殿下の苦しみを深く知るものの一人である筈のあのお方が、殿下を裏切るなんてことは考えもすることが出来なかったから。殿下のお顔を見るたびに、サイアリーズ様を恨む気持ちも少しながら湧いてきてしまいます。ですが、何よりも大きかったのは――
 リオンさんが凶刃にかかって、倒れてしまったことでしょう。女王騎士の見習いとして常に殿下の身をお守りし、常に傍にあって殿下のお心を優しく癒していた人――幸いにも、殿下の黎明の紋章の力によって一命は取り留めたらしいのですが、この病室のベッドで倒れているリオンさんの意識は、一向に回復する気配を見せません。
 リオンさんは殿下の大きな心の支えなのです。――それは、きっと殿下以外の誰よりも私は良く分かってることだと思っています。殿下を、あの時再会して以来、ずっと遠くからだけれど見つづけていた私ですから。

 私では、ルセリナ・バロウズでは、殿下のお力になることなど出来はしないのです。殿下から本当の意味で苦悩を取り払うことが出来るのは、きっとリオンさんだけ。今ここで目を瞑って眠っているリオンさんが、起きて殿下に笑いかければ、殿下の苦悩は取り払われ、あの輝かしい笑顔が戻ってくるのです。でも、それでも、私はどうしても殿下のお力になりたかった。あの人の代わりに心の支えになることが出来ないとしても、せめて。
「わたしも剣が使えればリオンさんの代わりに殿下を守ってさし上げるのに…」
 寝込んでいるリオンさんの前でぽつりと漏らしてしまった言葉。その場には余りに相応しくない言葉でした。同じくリオンさんを見守っていた殿下に聞こえてしまったかは、その時は考えもしませんでした。
 それは、きっと私の本心。私の中には、途轍もなく暗い、かつ叶わない思いが眠っているのですから。殿下がこの場を去って尚この場を動かぬ私を見た、医師であるシルヴァ様は、その白髪をかきあげながら顔を顰めて、
「お前にはお前のやるべきことがあるだろう。誰も他人の代わりにはなれん」
 そう私の内心を見透かしたようなことを仰いました。確かに私にはするべきことがあります。内務の整理や、部隊の編成などは大切な仕事です。私はその場は頷いて、持ち場に戻ろうとしましたが、誰も回りにいなくなって一人になった途端、あの思いがまた湧きあがって来ます。
 殿下のお傍でお力になり、そして――そして心をお支えしたい。それは、バロウズ家の罪を償うとか、そんな気持ちでは無くて、もっと根本的な気持ち。私は、殿下をきっと――

 夜が更けて、皆が寝静まったころ、私は気がついたら殿下のお部屋の前にたっていました。なぜここに立っているのか。それはわかりません。気がついたら足がここに向いていたというしかないのです。コン、と扉を叩こうとするのですが、異常なほど心の臓が昂ぶり、どく、どく、という音が自分に聞こえて来そうな気すらします。それを押さえて、二回ほど扉を叩いて、
「殿下、夜分遅くに申し訳ありません。ルセリナです…」
 そう扉の向こうに声をかけると、扉を開いて私を迎え入れてくれました。夜遅くでもあり、明かりも薄暗いのを一つだけつけてのことでした。
「あ…」
 私が声をあげたのは、月明かりと、薄暗い明かりに浮かぶ殿下のお顔に、はっきりとした涙の跡が見えたからでした。余りにも儚い、弱い青年。そんな姿――きっと、一人になったときにしか見せることの無い、素の殿下の悲しみがそこにあったのです。殿下は私の表情を見てか、その跡をごしごしと拭い去って、心配をかけてしまって御免、と一つ私に謝ろうとなさいました。
「そんな、面を上げて下さい、殿下…?」
 そう言って慌てて私が声を掛けたときに見たのは、殿下が無理に笑おうとして、失敗しているようなそんなお顔だったのです。
 以前、兄がご迷惑をお掛けしたとき、塞ぎこんでいた私に殿下は、「笑ってくれない?」と、魔法のような言葉で、私の憂いを取り除いてくれたのです。でも、きっと私にはそれは出来ない。それが出来るほど殿下の中で大きな存在じゃない。それが出来るのは――リオンさんだけ。

 そう思ったとき、何かが私の中に壊れるような気がしました。殿下のためにありたい。でも、私では何一つリオンさんのようにして差し上げれない。同じ女なのに、こんなにも違う。それでも、何か一つでも――
 殿下が、何か一瞬息を呑むような様子になりました。私は、気がついたら、自分の衣服に手をかけて、少しづつそれをはだけさせていたのです。
「せめて――殿下の、貴方の為に――」
 そんな言葉がどこからともなく溢れてきました。私は心の中から溢れてくるものそのままに、はら、ひらと服を床に落として肌を殿下の前にさらしていきます。ですが、私が下着だけの姿になる頃に、殿下はそんな私をゆっくり、しかし強く抱きしめて、
「無理をしないでいいから…」
 そう優しく声を掛けてくださいました。気がついたとき、私の身体は震えていました。しかし、殿下の優しい抱擁によって、その暖かさが染みてくると同時に、その震えは消えていきました。
「…殿下…殿下…!」
 私は結局、この方を癒すために来たはずなのに、かえっていつものように癒されてしまっていることに気がついてしまいました。それが悲しくて、でも殿下の優しさが余りに嬉しくてどうしようも無くなった私は、そのまま殿下の腕の中で涙を流し続けました。月光に浮かぶ殿下の顔は、ほんの少しだけいつものものを取り戻しているように私には感じました。

「殿下…ありがとう御座います」
 笑いかけて、涙の跡をつくりながらも精一杯の笑顔を浮かべる私は、きっとこの目の前の方と同じような表情をしているのだろうな、と思いました。そんなことを言うと、殿下も思わずか笑ってくださるのですが、私の姿を見たあと、急に顔を真っ赤にして後ろを向いてしまいました。
「殿下?…」
 何か不安に思って声を掛けたのですが、殿下は急にもじもじした声になって、上手く聞き取ることが出来ませんでした。
「殿下?…どうなさったのです?…」
 殿下の背中から、顔を覗いて問いかけると、ぽん、と湯気が出たように殿下は顔を更に真っ赤にして、
「そ…その、ふ、服」
「え?…きゃっ…」
 考えてみれば、私は下着だけの殆ど裸同然の姿になって、殿下の前にいたのです。しかも、今の体勢だと下着越しに胸を押し付けるみたいになってしまっています。
 これじゃあ殿下を誘惑しているみたい――そう思った途端、私も殿下の同じように顔を真っ赤にしてしまったことでしょう。恥ずかしい、そう思うと同時に、何か別のことが、頭の中から、身体の芯からもやがかってですが浮かんできたのです。
「う、後ろ向いているから早く服を着て…」
 そう仰る陛下に合わせて、私も服に手をかけようとしたのですが、その別の思いに縛られて、先に進むことがままなりません。そして――
「殿下…私を…私だけを見て下さい…」
 そうして私は、考えることを止めて衝動に身を任せ、殿下をまた後ろから抱きしめてしまっていたのでした。私が、心の底から思っているお方を。

 振り向いた殿下の瞳には、困惑と照れたような色がどことなく見て取れましたが、その中に殿下本来の、優しさのような色も見て取れました。私がそれに惹かれるように顔を近づけます。
 目の前には、端正な殿下のお顔が。紛れも無くアルシュタート様の血を引いた、とても美しくて柔らかみのあるお顔。その中にフェリド様の持つ、男らしい強さを瞳に秘め、見るものを魅了させます。視線と視線が交差しあい、その瞳に吸い込まれるような感覚に陥ったとき、
「あ…え?…ん…」
 一瞬、自分でも何が起こったかわかりませんでした。殿下がその瞳を閉じたとき、殿下のやわらかい唇が私の唇に触れたのです。甘い感触が唇の上を通り過ぎました。
 唇を殿下に捧げれた。後ろ暗い気持ちも、その時は吹き飛んでしまって。その感触が余りに恋しくて、今度は私から求めるように。殿下は嫌がることも無く私を受け入れて下さいました。そして、唇の間から――
「んん…あ…ん…」
 ゆっくりと、優しく殿下が私の肩を撫でるようにします。そして、唇から舌を入り込ませて、まるで絡めるように。自然と私もそれに応ずるようにしてしまいます。舌と舌とが絡み合い、自然と水音のようなものがぴちゃぴちゃと聞こえてきます。
 それに合わせて、まるで殿下とお互い求め、貪り合っているような、そんな甘美さを感じて、次第に自分の身体の芯のほうが、どんどんと熱さを増していき、肌が火照っていきます。
 どこか夢心地に陥る私をしっかりと見ながら、幾分まだ憂いを残した瞳をしながらも、すっと私の下着の肩紐に手をやっていきます。綺麗な指をしているけれども、肌に触れるそれは、殿下が辿った戦いの軌跡を現しているのか、ほんのちょっとだけごつごつしていました。でも、それは私にとっては少しも不快でなくて、寧ろ――

 肩から下着が外されると、殿下の目の前に私の胸が露になってしまいます。私は決して身体が貧相なほうだとこそ思いはしませんが、アルシュタート様やサイアリーズ様など殿下の周りにいらっしゃった方や、ジーンさんなどほど殿方の気を引けるような体つきではありません。ですが、それでも殿下は、
「綺麗…」
 そう言って私の耳に息を吹きかけるようにして、その指をゆっくりと私の胸に沈めていきます。すっぽりと掌に収まってしまいそうな私の胸をやわやわと揉みしだいていく殿下ですが、その度に私の息は荒くなっていって、そしてそれに呼応して殿下の指に込める力も段々と強くなっていきます。次第に跡がついてしまうのではというくらいに。でも、不思議なことに痛みはありませんでした。
「へ…ひぁ…」
 そして、殿下は舌でペロペロと胸の頂点の桃色を舐めて転がしていきます。そのお陰でかちこちになってしまったそれを、殿下は口に含んでちゅうちゅうと…
 そのお姿がまるで赤ちゃんみたいで可愛らしい、なんて思ってしまったことはとても殿下にはお伝えできないけれど。

 殿下は愛撫でぷっくらと膨らんでかたくなってしまっている乳首を舌で味わう度に、私の反応をうかがう様に、私の顔を見上げるようにします。空いている方を、すっぽりと丁度殿下の手におさめるような感覚で揉みしだき、交互に味わっていらっしゃいます。まるで飽くことなど知らないかのように。
「ん…あ…あっ……え?…」
 胸から走り出す快感に身を委ねていると、突然その感覚が消えてしまって、不安に襲われます。殿下は、そのまま舌と指先を私の肢体の上をなぞらせていきます。
 つつ…と胸からお腹、おへそを通って、太ももの部分を味わうように丹念に。それに合わせる様に、私の意識もそのあたりをなぞっていきます。
「ひゃん…あ…で、殿下…」
 ショーツの上から、お尻を指先だけでなでまわされる感覚がしました。もう既に何かたがが外れてしまった私の身体は、もっと激しい愛撫を望んでしまいます。
 そんなことは恥ずかしすぎて、とても口に出せるようなことではないのですけれど、殿下はまるで私の気持ちなど見通しているかのように、動きを激しくしていき、跡がつくくらい強く力を込めて嬲ってくれます。でも、どんなに荒々しくされても、その中には殿下の優しさが確実に感じられて――
 そして、殿下の指先は遂に――ショーツをなぞるように移動して、女の大事な部分にたどり着きます。

 殿下はショーツの上から指を往復させて、熱を帯びた声で何やら呟いています。
「凄い…もうぐしょぐしょだよ」
「あ…そ、それは…」
 殿下に言われるまでも無く、そんな事は自分でも分かっていることでした。密かに殿下を思って自分一人で妄想に耽って慰めるときなどとは、比べ物にならないほどの快感を味わってしまっているわけですから、そちらのほうもいわずもがな…ということです。
 それでも、殿下の口から改めて確認されるように言われると…また狂おしいほどの熱いものがこみ上げてきます。せめてもの羞恥心の抵抗が脚を閉じさせるのですが、殿下はそれすらも愛でていらっしゃるようでした。そして殿下は熱に浮かされた目で、
「ねえ、脱がせていいの?…」
「え?…あ、その…」
 私を纏うのも、あとこの布切れ一枚ですし、これを脱いでしまえば殿下に全てを晒してしまうことになってしまいます。それが厭なわけでは勿論ありませんが、全てちゃんと着こんでいらっしゃる殿下が、ほんのちょっとだけずるく思えてしまいました。
「駄目、かなぁ…」
 僅かばかり潤んだ目で覗き込まれると、余計にそれを断ることなど出来はしないのです。私はそこで、ちょっとだけ自分の気持ちを漏らしてしまいました。
「せめて、殿下も…」
 それは、私が恥ずかしいから、などということじゃなくて、殿下にも同じになってほしいなんていうしょうもない思いの成せる業であったに違いありません。キョトンとしていた殿下も、その言葉の意味を知って、苦笑した後、御免ねと私に一言告げてからおもむろに衣服を脱ぎ捨てていきました。

 殿下の顔立ちは元々女性的であらせられるのですが、この時微妙に恥らっていた姿も、どちらかといえば女性のそれに近いものであったのでしょう。確かに恥ずかしいね、そう仰る殿下の裸形は、私など比べ物にならないほど美しいものでした。
 感嘆のため息を自然と漏らすと、殿下は、今度は君の番、と仰って私の手を軽く取ります。私の番、と言っても、既に私は下着一枚を残したのみ…と、いうことは…
「で、殿下…それって、つまり…」
「…見せて、ルセリナ」
「…はい。でも、あんまり見ないで下さい」
「うん」
 そう返事をなさった殿下ですが、私の大事な部分から目線をそらす気配は一向にありません。寧ろ、一層強くなった視線をそこに感じています。にも関わらず、私の素直な身体は殿下に全てを曝け出したい欲求を露にしていきます。
 そして、羞恥との狭間に揺れながらも私はたっぷりと私の愛液を吸収してしまったショーツに手をかけて、ぴっちりと閉じた脚からゆっくりとずらして下ろしていきます。
 緩慢といえばそれに過ぎるような鈍い動きでしたが、殿下はショーツをすこしづつ私が下にずらす度に顔を近づけて、大事なところを全て見せてしまうくらいのころには…
「で、殿下…そ、その…息が、あたっちゃって…いぁ…」
 殿下もすっかり息を荒くしており、鼻をくんくんさせて、私のあそこを見上げながら…まだ、この年になっても毛も生え揃わないような、そんなのなのに…一瞬、息が詰まるような感覚がしました。殿下が私のあそこを見上げながら、ご自分の、その、モノを…
 私は勿論こんな経験は無いので、精精湯浴みの時に兄や父のものを見てしまった程度ですが、殿下のは秀麗なお顔に見合わず、と言ったら変かもしれませんが…つまりそういうことなのです。

 思わずそれに見入るようなことになってしまいましたが、そのせいで…脱ぐとき糸を引くほど濡れそぼっていたあそこから、雫が殿下の鼻の頭あたりに落ちてしまいました。余りに失礼にもすぎるその行為を思うと、自分の身体から一瞬だけ血の気が引いていきます。
「で、殿下…す、済みません…」
 ぽかん、とその雫がおちてもまだ私のそこを見つめていた殿下も、肩を震わせてしまっています。殿下がお怒りになるのも無理はありません。だけど、嫌われたくないのに…この方にだけは、絶対に…
 自分のせいなのに、涙が流れてしまいそうになったとき、突然また電流のようなものが身体を走り出します。
「ひぃ…あ、そ、そんなの、汚いです…」
 じんじんとするその丘を湿らすものを、殿下はぺろぺろと綺麗に舐め取ってしまい、どんどんとあふれ出すものすら、そこに口付けたままじゅうう、といやらしい音を立てながら強く吸い上げていきます。
「だ、だめ…もう…」
 触覚、視覚のみならず、聴覚までも支配された私は、ただひたすらに落ちていく感覚を味わい、更にそれを深くしたいが為に殿下のお顔をそこにおしつけるようにしてしまいます。
 殿下もそれに応えてくれて、あそこに舌を入れることまで…そして、遂に私は。
「で、殿下ぁ…あ、あ、あ…」
 ふら、とまるで一瞬卒倒しそうな感覚に陥って、ふら、としてまたベッドに倒れこみます。それとともに流れ出したお汁も当然のように殿下を汚して…はぁ、はぁ、と余韻に浸る私の顔を見た殿下は、ごめん、と一つ謝って、
「…もういい加減我慢できそうにない」
「え?…」

 その言葉と共に、戸惑う私を尻目に脚を掴んで、股を開かせます。そして、真摯な瞳で私の目を覗き込み、
「…でも、本当にいやだったら、無理せずにいやって言ってくれていいから…今だったらまだ…」
 そう言われて、殿下が私の初めての相手をして下さる、ということがようやくくっきりと分かってきました。どこか戯れめいた今までのとは違って、明らかに一線をこえる、ということ。
 確かに勢いに任せたものではありますけれど、それでも殿下は私をおもばかって下さって。先ほどとは違う涙が流れそうになり、それを見て、
「…やっぱりやめておこう」
 そう仰る殿下に私は、
「いえ、お願いします…」
 そうして殿下の腕を掴んで、ベッドの上に引き寄せます。視線が重なって、幸福感に包まれる私。殿下はわかった、と一諾した後、
「出来るだけ優しくするよう頑張るから…」
「はい…お願いします」
「うん…」
 不安が全く無い、そう申せば嘘になります。けれども、殿下の優しい眼差しを受けると、それもまるで吹き飛ぶようになって…殿下と一つになれるんだ、たとえ殿下の一番じゃなくっても…。それでも殿下に思ってもらえて、一つになれるのなら。
 殿下はご自分のものを、私の股の辺りに押し付けます。
「あ、も、もうちょっと上です…」
「う、うん…それじゃあ、痛かったらそう言ってくれていいから…」
 そうしてしっかりと私の秘所に先を少しだけ入れて、再度私に優しい言葉をかけてくださいます。既に覚悟の整っている私がコクリと頷くと、
「いくよ…」
 息を呑んでそれに備えた私ですが、ずぶずぶと侵入してくるモノがぷちん、と膜を破ってしまうと、想像を絶する痛みが襲ってきて、
「ん〜〜〜〜っ…いっ…つ…」
 シーツを掴んで頭を振り乱し、声にならぬ声を上げてしまいます。でも、涙で歪んだ視界から殿下が心配そうな顔をしているのが見えると、我慢しなければ、そういう重いが働いて、精一杯耐えるようにします。また、意識が遠ざかりそうな感覚になって…

「大丈夫?…御免」
 再び意識が戻ってくる頃には、痛みも大分治まっていました。殿下が済まなそうな顔をしているのが目に入ると、別の痛み、身体の痛みより辛いものが襲ってきます。
「殿下…その、笑ってください」
 いつか言ってくれたのと、同じ言葉を殿下に返します。私は殿下に少しでも笑っていて欲しくて。なのにその私が殿下を苦しめてしまうのは、余りにも辛いですから。
「うん…それじゃあ、動くよ」
「はい…」
 ちょっと無理した笑顔を浮かべながら、少しずつゆっくりと腰を沈めたり、浮かしたりして私を刺激していきます。私、今殿下を受け入れてる。殿下が私を受け入れてくれている――
 そうして、次第に走る痛みが段々と快楽に変わっていき、それと共に殿下の律動も速くなっていきます。私もそれに合わせて、自然に腰を動かして。少しでも殿下を感じて、そして感じさせたいから。
 じゅぶじゅぶ、とお互いの大切な場所がこすれあう音と、腰を叩きつける音が響きます。でも、いやらしいはずのそれも少しもそんな風に思えなくって、ただただ甘い感覚と狂おしいほどの感覚に頭が占拠されていって。
「ル、ルセリナ、も、もう…」
「殿下…でんかぁ…」
 律動の振動で揺れる私の胸を鷲づかみにし、更に唇にキスをしながら、腰の動きは最高潮に達していきます。そして、私も殿下を抱きしめて…
「殿下ぁ…わ、わたし…」
 そして、秘所から何かがはぜる様な感覚がしたかと思ったら、信じられないほどの快楽に頭が埋め尽くされ、また意識が飛んでいきます。
「ルセリナぁ…」
 そして、次第にまどろみに沈むような感覚を味わいながら、目を閉じていくとき、私の想いがほんの少しの優しい幻聴を生んだのでした。
 私が殿下の口から聞きたかったあの言葉。そしてこれから聞くことが無いかも知れないあの言葉を――私は殿下の腕を枕に、ほんの少しの眠りに身を任せました。

 そして一夜明けて、私は朝早くいつものように義勇兵の受付や殿下おつきの方を揃える役目にまた付きます。シルヴァ先生の仰る通り、結局私に出来ることは、今の時点ではこれだけなのですから。
 まだこの時間には商店の方々は店を出しておりません。なのに、後ろから私を呼ぶ声が。
「ルセリナ…、その…」
「…殿下」
 私の前にあらわれた殿下は、いつもどおりの顔をしてらっしゃいました。勇気と優しさに満ちた、あの目を。理由を尋ねたところ、リオンさんを救う。そのための指標がとりあえづついたとのことのようです。私もほっとします。
「…そのほうが、ずっと殿下らしいです」
 矢張り、リオンさんは殿下の大切な方なのです。それが、ちょっとだけ悲しくて胸を差します。でも、殿下が悲しい顔をしているときの苦しみに比べれば何でもありません。
「え?…」
「いえ、それで…どなたをお連れになられるのですか?」
 そういって、いつもどおりの笑顔で私も仕事に付きます。ですが、殿下は僅かばかり照れた様子で
「あの、それもだけれど、そうじゃなくって…」
「え?でも、そうじゃないってどういうことですか?」
 ひょっとして昨日のことで、心をかえって痛めてしまったとか…ですが、そんな不安を見透かして、でも殿下はおろおろした様子で、
「いや、そういうことじゃないから、そんな悲しい顔は…いや、でも…」
 何かもごもごして言いづらそうな様子をしている殿下。余り見ることの出来ない貴重な表情です。

 リオンさんの代わりにおつきの騎士になっているミアキス様は、なんとなく何かを悟った様子で、でもちょっとだけ茶化すように、
「…私、席外しましょうか?」
 なんていう風に殿下の耳に吹き込むようにすると、殿下はさらに慌てふためいて、
「い、いや、そんなことしてもらわなくても…」
 でもそんな殿下の言葉を全く聴かないようにミアキス様は、
「あ、ちょっと部屋に忘れ物しちゃいましたぁ。取りに行って来ますから、それまで待ってて下さいね?」
 そうして軽い身のこなしで階段を駆け上がり、結果、私と殿下だけがここに二人きりで残ることになります。
「あ…ん、ルセリナ、その…」
「で、殿下…」
 しーんとしたこの場所で二人きりになると、いやがおうでも昨夜のことを思い出します。ぽりぽりと頬を掻く殿下の頭にも、それが浮かんでいることでしょう。
 殿下はそして深呼吸をいきなりし始め、私の肩をぽんと叩いて掴み、真剣な眼差しで私の瞳をしっかりと見つめます。
「あの…殿下?」
「ル、ルセリナ…だから…」
 そして、殿下の口からまた言葉が閉ざされます。私も殿下に気おされて、上手く口を開くことが出来ません。それほどまでに真剣な眼差しだったのですが、
「…やっぱりまだいい」
「え?…」
 結局殿下のほうから視線をそらしてしまい、そして行って来ます、と告げて、走って階段を上がっていくのですが…段を三つほど上がったところで、ぽつりと呟く声が私に届きました。
「…その、ありがとう」

 一人残された私の頭には、いろんなことがよぎります。一体、あの言葉の意味は何なのか。殿下が私に伝えたかったのは、その言葉なのか。それとももっと別の…
 ぐるぐると他にもいろんなことが頭を駆け巡りますが、考えたところで答えも出るはずもありません。結局、全部胸にしまいこんでとっておくことにしました。
 そして、昨夜のことを再び思い返します。私は、今まで殿下の一番でなくてもいいと思っていたけれども。
「だけど本当は…」
 本当は、あなたの一番でありたい。その考えないようにしてきた本心は、たった一夜にして露にされてしまいました。リオンさん、殿下が貴方を救う手立てをみつけて、帰ってきて、そしてこの戦いの全てが終わったら――そのときは、きっと全身全霊を用いてあなたから殿下を。でもそれまでは――昨夜のことも、私の想いも。
「しっかりと胸にしまっておきます」
 そうして私は、殿下の去っていったほうをのぞみます。あなたが無事でありますように。ほんのちょっとだけ自分が強くなったことを感じながら――

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