ボルス×クリス 著者:WING様

数多の戦場を駆け抜けた銀の乙女は混乱していた。

敵陣に押し返される我が軍をいかにして救うか、
次々に吹き消される兵士達の命の灯火の亡骸を目の当たりに―――

するよりも混乱していた。

「…なんのつもりだ?」
ひとまず落ち着こうと気強い第一声を吐いてはみるがどうにもうまくいかない。
心の臓は今にもひっくり返りそうだ。
ゼクセン騎士団長、クリス・ライトフェローは部下である騎士、ボルス・レッドラムによって
自室のベッドに押し倒されていた。
「え、えっと…あの、それは…。」
現在の体勢の割に何とも弱気でおどおどした声色。
しかし、クリスの両腕を抑えつける握力は無駄に力んでいる。
「腕が…痛いのだが。」
「あ、あ、す、すみません…!」
と言って放してくれれば良いものを結果は若干締め付けが緩くなった事くらい。
『最近連戦続きで元気がないように見えるから』と年代物のワインを持って来て
飲み明かそうと言った彼の善意にはこんな邪な意図が隠されていたのか。
クリスは改めて『男』という生き物を悟り、同時に恐ろしくなった。
「ボルス、やめてくれ。」
なるべく内側に秘めたる今にも泣きそうな恐怖心を出さぬよう力強く言う。
ボルスの真っ赤になり、歯を食い縛った必死な顔と睨めっこを始めてから
もうかなりの時間が過ぎている。
「あの…クリス様…オレ、…オレは。―――本気です。」
「―――は?」
それはつまり『本気であなたを犯す気です』ということか?
クリスは呆れの後に昇る恐怖で青冷めた。

824 :WING :02/10/15 01:47 ID:6c22pGc6
「いや、違うんです!その――オレ、クリス様が好きです。愛しています。」
「―――。」
「出会った時からずっと。我が剣、確かにゼクセンに捧げた物でもありますが、
 今は、クリス様に捧げていると言っても過言ではありません。」
「ボルス…。」
「早く言えばよかったのに、どうしても―――難しくて。
 でも、でも―――。言わなきゃ始らないって気づいたんです。
 言わなきゃ、クリス様はオレになんて振り向いてくれないって。
 初めはそれでもいいって思ってたんです。でも…誰かに取られるのは嫌だった。」
その“誰か”が彼の同僚でありクリスの部下にあたる青年であったり、
クリスの前に突然現れて一時遠くへ連れ去った工作員の中年(本人は認めてないが)で
あることをクリスは知らない。彼女も彼女で相当に鈍感だったのだ。
クリスもこの直進な告白にはボルスの真剣さを受け取らざるを得なかった。
「…そう、か。」
「オレ、絶対にクリス様を大事にします!他の誰の手にも触れさせません!
 安心してください、オレ、次男ですし婿養子も全然OKですから!」
「は?」
待て待て待て!この男、啖呵を切ったら随分と饒舌。
―――、というか暴走してる?
「ま、待てボルス、私はまだ何も―――」
「ええ!オレ達、まだ何も始っちゃいません!これから始るんです!
 大丈夫ですクリス様!オレだってそれなりに経験は積んでます!
 必ずクリス様を良くして差し上げます!」
なんだそれは!クリスは半分泣きそうになりながら抵抗を始めた。
しかしボルスも一介の騎士であり男。全くビクともしない。

825 :WING :02/10/15 01:48 ID:6c22pGc6
「やめろボルス!やめないか!!」
叫び続けてもボルスの前進は止まらない。クリスは機転を変えて助けを求める事にした。
「誰か!!誰か来てくれ―――ふっ…!!」
二度目の叫びに入る前に唇を塞がれた。
「ボ、ボル…や、やめ…んっ…!」
埋め尽くされるような情熱に襲われる。
熱のたっぷり通った口付けはボルスの性格と現状の暴走を如実に表現している。
「クリス様、どうか力を抜いて下さい。乱暴な真似は致しませんから。」
――――充分乱暴だ!!
ボルスの執拗な攻めのお陰でクリスの地の声は発言には至らなかった。

砕けそうな口付けが続き、その最中でボルスの手が荒荒しくクリスの部屋着を剥がしてゆく。
「だ、ダメ…!」
「安心してください。」
一体何を根拠なのか、平常ではクリスの指と触れ合うだけで真っ赤になってしまうボルスが、
やたら逞しく頼り甲斐のある男に早変わりしている。
同じ騎士団の連中が目の当たりにしたとしたら、驚く事この上ないだろう。
―――その前に手痛い制裁がふっとんでくるだろうが。
下着越しにクリスの胸を揉みしだき、口付けを徐々に首筋から下に落としてゆく。
「ぁっ…や、やめて…」
か細い抵抗はもう既にボルスの耳には届いていないのであろう。
口付けの角度が変わる度に揺れるボルスの前髪がクリスの顎元を掠め、心地良い香りで酔わせてくる。
「ボルス…やめてくれ…頼むから。」
すっかり腰が抜けてしまったクリスは既に言葉で対抗するしか術がなかった。
信頼している騎士の一人だった筈。熱しやすい性格には年上ながらも弟のような感情を抱いていた筈。
それが普通の男以上の感情だったとしても、それはこういう意味ではない―――。
ボルスとの関係を崩したくなかった。壊したくなかった。

826 :WING :02/10/15 01:49 ID:6c22pGc6
「クリス様…、オレだってそうですよ。貴女を一人の上司として、騎士として命を捧げ様と思った。
 ―――ですが、気付いてしまったのです。オレの心の奥底で…貴女を“女”して求めて居る事に。」
「…それは私が騎士として役不足だった、ということか?」
「とんでもない!貴女はオレにとって一番の騎士だ。
 ―――だが、それと同時に、…一番の女性でもある。」
鎖骨に置かれていた唇が動く度にやるせない衝動に駆られる。
彼の切なる心が突き刺さるように痛い。
受け入れてしまいたい気持ちだって勿論ある。
だが、そうしてしまえば自分が今まで培ってきた騎士としての自分が崩れ、
奥底で封じていた女としての自分が表沙汰に出てしまうかもしれない。
明日鎧を身に纏った自分は…騎士ではなく女でしかなくなってしまっているような気がして。
「…ダメだ。自信がない。」
そこまで私は器用ではないよと被りを振るがボルスは首を振りつづけるのみだった。
「たとえそうだとして、他の誰もが貴女から離れたとしても、オレだけは違う。」
クリスの瞳が見開かれる。
「オレは絶対に貴女を裏切らない。」
「―――ボルス。」
微かにボルスが笑ったかと思うと、彼の指先が執拗に胸元を攻め立て、
先程の感覚が鋭利に呼び覚まされ、クリスは快感の波に浚われた。
「あぁッ――!」
焼けつくような衝動に押し流されどうにかなってしまいそうになりながら今度はボルスの腕に縋っていた。
「クリス様…失礼致します。」
そう言ってボルスはクリスの下半身を露にし、指先を2本3本と押し入れた。
存分に濡れた内部はあっさりとそれを受け入れ、緩やかに締め付ける。
「こんなに感じて下さっていたとは、嬉しいです。」
「ボ…ルスッ…」
それでも尚壁の崩れきらないクリスは言葉では求めてはいなかった。
体と本能は存分に彼の侵入を許していたのに。
「貴女は騎士である前に“クリス”と言う名の女性に変わりない。
 ―――無理をする必要は全くない。貴女が傷つく必要は全くない…。」
「だ、だけど…!」

827 :WING :02/10/15 01:50 ID:6c22pGc6
ボルスは欲情した自身をクリスに押し当て、クリスの体が強張る。
「ひゃっ…。」
「もし貴女が騎士でありつづける事を選んでも、オレの前だけでは女で居てくださって構わない。
 オレを、寄りかかる壁にしてくださって構わない…。」
「ボルス……」
衝動のお陰でその先の言葉は出なかった。振動する内部に体を預け、開け放たれる快感に心も委ねた。
「はぁ…あぅ…んっっ―――!!」
達したと同時にボルスも自身を抜き、シーツの海に煌きを開け放った。

828 :WING :02/10/15 01:50 ID:6c22pGc6
居心地の悪い空間が部屋を染める。
クリスはボルスを背にして肌蹴させられた衣服を正し溜息を吐いた。
「―――クリス、様。」
「―――良い、今日だけは酔いのせいということにしておこう。」
「――はい。すみません…。」
背の感覚がなくなり、ボルスは既に部屋から出る体制だった。
そのまま視線も一切合わせず、明日からは普通通りに振舞えばいい。
今日の事は夢でもあったかのようにしてしまえば、互いに具合がよいだろう。

「失礼、します。」
淀む背を見返してしまう。

「―――ボルス。」
そのまま、呼びとめてしまう。

「―――はい?」

「―――――――ありがとう。」

たとえ一時の夢として通りすぎようとも、残しておきたかった言葉だけは放つことにした。

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