フランツ×イク 著者:2_262様

 ゲドの拳が閃いて、フランツとイクの眼前で、男の身体が吹き飛んだ。
 そしてゲドがその男を一喝すると、次の瞬間、自分たちを取り巻いていた狂熱が冷めたのを二人は感じた。事実、二人を罵り、あまつさえ暴力を振るったルビークの住人たちはひとりまたひとりと視界から消えていく。
 「あっ…!」
 フランツは立ちあがって、自分たちを救ったゲドたちの影を探したが、もうそれはどこにもなく、ただ荒れたルビークの地に自分たちがいるだけになっていた。それに気付くとフランツの視界がグラリと揺れた。奇妙な浮遊感と共に目の前が空でいっぱいになる。
 ちくしょう。お前は俺に絶望しかくれやしない。
 「フランツ!」
 イクは倒れるフランツの身体をどうにか支える。のぞきこんだその顔は青アザとかすり傷が多くつくられていた。
 「痛い… な…」
 「他人事みたいに言わないでよ」
 「あ、ああ… 少し、やられ過ぎたな。はは…」
 「フランツ… ねぇ、立てる?」
 そう言われて動き出したフランツの足元はおぼつかず、立つのがやっとだということを証明していた。イクはそのまま彼を肩に乗せるようにして抱えあげると自宅の扉に向けてゆっくりと歩を進める。
 「しっかり、つかまっててよ。家まで運ぶから」
 「大丈夫だって… ガキじゃ無いんだからさ…」
 「なに言ってるのよ… さぁ」
 額から流れた血が眼に入ってフランツの視界を焼く。
 「つッ…!」
 「しっかりして、フランツ…」
 「ああ…」
 フランツはうつむきながらもどうにか歩き続ける。ルビークの砂は、二人に踏まれて、カシャリという乾いた音をたてた。

 「ほら、着いたわよ。 がんばって」
 扉の前にたどり着いても、フランツはただ何も答えず、うつむいたまま。イクがドアノブに手を掛けて、家に入る。室内の空気に触れると、二人は少しだけ落ち着くことが出来た。イクはベッドにフランツの身体を降ろすと、せわしなくキッチンの方へ向かって行く。
 フランツはベッドの上に身を委ねながら、軋む身体をどうにか動かしてハルモニア製の硬い鎧の止め金をひとつひとつ外し、それを床へ放り落とす。ゴツンという重い音がして、鎧は転げ落ちた。
 鎧の転がる音に少し驚いたイクが応急処置用のバスケットを持ってきた。
 「染みるけど、ガマンしてね…」
 そう言うと彼女はピンセットではさんだ脱脂綿に薬品をつけて、そうっとそれをフランツの血のにじみ出る顔面にあてがう。
 「いっ…! たっ!!」
 「動かないで! フランツ!」
 フランツはうつむき、歯を食いしばって痛みに耐える。
 「すこしだけガマンして… これは山道で取れた最高級の薬草なんだから… それから、はい、これ」
 薄緑色の液体の入ったコップをフランツに差し出す。
 「その薬草を煎じたお茶よ。このくらいの応急処置しか出来ないけど、痛みは…引いた?」
 フランツは何も応えない。ただ、お茶を飲み干して何も入っていないコップに瞳を落としたまま、うなだれている。

 「フランツ…?」
 イクが彼の顔を覗きこむ。そして彼女は彼の目元から伝わり落ちた水滴がコップの底で弾けるのを見た。
 「どうしたの? ねぇ、だいじょうぶ?」
 「…ごめんな、イク」
 小さな声で彼はつぶやく。
 「俺、なんでこんなに弱いんだろ? ここを救うためと思ってチシャクランを襲撃して、ここを守るためと思って炎の運び手のところまで行った。でもさ、でも…」
 「フランツ…」
 「全部、上手くいかない! 挙げ句には同じここの人間に殴られて、ゲドさんに助けられ、イクに助けられて! なぁ、どうして俺はこんなに弱いんだ? なぁ!」
 フランツは自分ですら信じられないくらいの涙を流していた。
イクはその悲痛な叫びごと救うように彼の首筋に腕を回して、その胸に抱きすくめる。
「イク… 俺は…」
「何も言わなくていいの、フランツ。わたしはね、小さな頃からずっとフランツの背中についてばっかりだった… だってあの頃からフランツの背中は広くて大きくて、わたしはそれに守られてさえいれば、安心できた… だからフランツがハルモニアに行くって聞いた時はどうしていいか自分でも分からなかったわ。ただ怖くて、不安で、世界中がわたしを見捨てたんだって本気でそう思った。フランツは違う国の子になるんだって。わたしはひとりになったって…」
「そんなこと… あるわけないじゃないか」
「うん。フランツが帰ってきてすぐに分かったよ。どんな気持ちでハルモニアにいたのかも、分かったよ」
「…ありがとう」
フランツの両の腕がイクの背中にまわる。抱きしめられると今度はイクの肩が震える。

「それから、フランツが大きくなって帰ってくるまで分からなかったこともあって…」
「好きだよ、イク」
それは、彼女が言葉にしようとしていたこと。イクは戸惑い恥じらいながらもその言葉を口にした少年の瞳を見る。
「俺も気付かなかった。クリスタルバレーに行って、はなればなれになるまで。その時初めてイクを失いたくない、君を守りたいんだって… 君が好きだって」
近づいた瞳のその色は今までに見た何よりも澄んでいるような気がした。
ふたりはそのままごく自然に唇を重ねた。
ほんの少しだけ、時間が止まったような気がした。再び時間が流れ出すのと同時に、ふたりはお互いに対する気持ちが溢れてくるのを止めることは出来なくなっていた。お互いの名前をつぶやきながら、もういちどキスをする。彼女の柔らかい唇をついばむ ように、何度も。そしてそのキスのひとつひとつが彼女の羞恥心を溶かしていく。

「いやぁ… はぁ…っ」
フランツの手のひらがイクの服の上からその乳房に触れる。そのままそれをやさしく揉みしだく。彼女の吐息があたたかくなるのが耳元から伝わってくる。
「ふ… 服、脱ぐから、ちょっとだけ…」
イクは顔を真っ赤にしながら、彼にそう囁くと、おぼつかない手付きでひとつひとつボタンを外していく。露わになった真っ白な肌に、キスをして、舌を這わせる。指先で彼女の胸をなぞると、その突端はツンと固くなっている。
「はぁ… あ、やぁ…っ」
初めての甘い快楽が身体を走り抜けていく。彼が指で、舌で、激しく乳首を責めたてるたびに自分がおかしくなりそうな感覚におそわれる。下着が濡れているのが自分でも分かった。そして、そこに触れて欲しいと思っている自分がいる。
「イク… 綺麗だよ…」
唇を奪い合うようなキスをする。舌を彼女の口内にもぐり込ませて、それを絡めあう。左腕で彼女を抱きとめたまま、右手をまだ誰も触れたことの無い茂みへとすすめる。もう充分に濡れていたそれはクチュリといやらしい音をたてた。
「だめぇ… だめぇ…」
懇願するような彼女の声は、ただ彼の理性を破壊するだけだった。

「イクのすべてを、見せて…」
腰に手が掛かり、そのまま衣服を剥がす。下着と彼女の身体のあいだで粘液が糸をひいて、だらしなく垂れ下がっている。そして、フランツに為されるがままに、彼女は一糸まとわぬ姿となった。
「イク… すごいよ… こんなになってる…」
「フランツの、そこも…」
イクの視線の先には、今にもズボンを突き破らんばかりに膨らんだ彼の股間がある。彼女は彼のシャツの裾をくいくいと引くと、耳元で小さく囁く。
「わたしだけ…じゃ、恥ずかしい…から」
そう言うと、彼女は彼のシャツに手をかけて、そのまま取り去る。その仕草にはいつもの控えめな少女の姿は無い。彼の素肌に出来たいくつかの小さなアザのひとつひとつに彼女は丁寧にくちづけをする。
「ごめんね、フランツ… 大好き、フランツ…」
呪文のように唱えながら、彼女はフランツのズボンのベルトを外し、ズボンを下ろす。その下着を取り外すと、屹立したペニスが彼女の眼に飛び込んでくる。
「あ… ねぇ… その… これが… 入るの?」
湧きあがってくる、いとおしい気持ち。フランツは何も言わずに不思議な戸惑いと快楽を表情に残したままの彼女を抱き寄せる。裸のままの抱擁は今までとは違うぬくもりを伝えてくれる。
「ああ… ひとつに、なるんだ…」
その言葉は考えられないくらい甘美で、イクの思考をとろけさせる。やがて自分の股間に、ゆっくりと、でも確実にフランツの先端がそこに触れる感触がある。愛液が流れ落ちて、彼の身体へ滴り落ちていく。
「行くよ…」
フランツはその根元を手で固定したまま、ゆっくりと進みいれていく。その入り口は狭く、キツく入りこんでくる彼の生殖器を締め上げる。
「はぁっ…! あぁっ! はぁ…!」
彼女を得体の知れない感覚が襲う。悦楽、苦痛、歓喜、恐怖、それらが混ざり合った感覚。両方の腕をしっかりと結びつけて、彼の身体にしがみつくようにして耐える。

「イク、だいじょうぶ…?」
「うん… だから… やめないで…」
それはゆっくりと彼女の身体のなかに沈み込んで行き、やがて二人の身体は完全に密着した。
「はぁ… はぁ… はぁ…」
彼女はまだ苦しげな表情を浮かべたまま、彼に抱かれている。少しだけ苦痛は和らいだ。そのかわりに頭がぼうっとするような感覚が頭の中に居座っている。フランツが抱きとめてくれないと、フランツを抱きしめていないと、このままどこかへ飛ばされてしまいそうで、彼女は何度も愛するひとの名前を呼んだ。そのたびに彼はやさしいくちづけをくれた。そのたびに痛みが消えて、自分の中に熱い塊となった彼が溶けこんだような錯覚を感じる。
「動いて… いい…?」
小さく彼女は頷いた。次の瞬間に自分のなかにある熱い塊が動き出した。
「あっ…! はあっ…! やっ…! あんっ!」
これまでに感じたことのない甘い衝動が彼女の身体を包み込んでいく。自分でも信じられないくらいの快楽を抑えきれずに、こぼれた声が彼の理性を崩れさせる。フランツは自分の腕の中で醜態をさらす愛する女性の姿に、心臓が弾けそうになりながら、腰を突き動かす。かたちを揺らめかせながら彼女のなかは彼を刺激し続ける。昇りつめてくる射精感にもう、あらがいきれない。
「…! もう、俺、ダメだ… 出すよ…!」
「うん… 来て…」
彼女は抱きしめる腕に力を込める。
「ぜんぶ、残らず、フランツを、受け止める… から…」
そのささやきが引きがねになって、彼女のなかでフランツは果てた。勢い良く飛び出した精液が、彼女の子宮を満たしていく。
「いっぱい、入ってくるよ… きみが出してくれたのが…」
乱れた呼吸を整えることもせず、彼女は愛しいひとにキスをした。今までで一番長い、深いキスを。離したあとで、天使のような微笑みを少しだけ見せて、彼女はフランツの胸に寄りかかってすやすやと寝息をたてはじめた。
その姿は、幼な子のように無邪気で、穏やかだった。
まだ、自分を諦める訳にはいかないんだな、フランツはつぶやく。
自分の胸のなかで安らかな寝息をたててくれるひとがいる限りは。

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