満月の夜の秘密 著者:5_236様

 人の気配に気づいて振り返ったフリックの視線の先には、夜風に体を震わせたテレー
ズが立っていた。
「どうしたんだ…こんな夜中に」
 フリックは驚きを隠しきれなかった。城の屋上は湖から吹きつける風も強く冷たく、
また普段は施錠されて入れないようになっているため、めったに人の訪れはない。フ
リックはたまにここに来て、一人酒を飲んでは、静かに物思いにふけっていた。
「邪魔してごめんなさい、ニナから聞いたんです」
 あのおしゃべりっ。テレーズに聞かれないように小さく舌打ちする。
「どうしても聞きたいことがあって…」
 そう言うテレーズの顔はどこか沈んでいて、言葉もよどみがちだった。
 テレーズは苦手だ。失った人に似ているから。美しく儚げな外見とは裏腹に、強い信
念を持つ女性。そう、心の中に今も住み続ける永遠の恋人オデッサに、テレーズはどこ
か似ていた。
「話なら部屋でもできるだろう。こんなところにそんな薄着で来て…、風邪を引かれた
りしたら、俺がシンに怒られる」
「シンは…関係ないです」
 テレーズの顔が強張った。
「関係なくはないだろう。あんたのことを一番心配しているのはシンだ。ホラ、上着貸
してやるから」
 フリックはマントを脱いでテレーズの肩にかけた。月明かりに彼女の白い肢体がほん
のりと照らされ、フリックは慌てて目をそらした。
「…男の人は」
「え?」
 マントを前でかき合わせながら、テレーズはフリックの目を見た。

「男の人は、一度誓った愛を生涯貫くことはできるのですか?」
「恋愛相談なら別のヤツにしてくれ」
「あなたは、失った恋人を今も愛し続けていると聞きました」
 テレーズはしばらく俯き、やがて意を決したように顔を上げた。
「今だけ、私が彼女の身代わりになれませんか?」
「何を言って…」
「お願いです、今だけ私を…」
 テレーズはフリックに抱きつき、背伸びをして唇を求めた。だが、フリックはやや乱
暴にテレーズの腕を捻った。
「痛ッ!」
「どうかしてるぜあんた。迫るならシンにでも相手をしてもらえ」
「それができないから…ッ!」
 冷たいコンクリートにへたり込んだテレーズは、悲鳴のように叫んでから己の言葉に
赤面した。
「あんたら…」
「…私たちは小さい頃将来を誓っていました。その頃は身分の差など感じていなかった
し、私はシンをずっと男性として愛していました。だけど、市長になり命を狙われるよ
うになると、シンは私との未来をなかったことにしてくれと…。生涯誰も娶らず、愛す
るのは私一人だけ、でもその愛は実を結ぶことはないと…」
 シンの決意が、フリックには痛いほど分かった。恋人として、伴侶として添い遂げる
ことはなくとも、愛する女性のために命をかける、それはなんて崇高な愛なのだろう。
今の彼女を守るために、約束された未来を捨てるという、そんな愛もあるのだ。
 しかし、それは男の、戦う者の理屈だ。テレーズのような女性には理解してもらえな
いだろう。
「シンの気持ちは分かります。でも、私だって寂しいときや辛いとき、誰かに思い切り
甘えたい。側にいて欲しい…」

 一瞬、声を殺して泣くテレーズの背中がオデッサとダブり、フリックは息を呑んだ。
オデッサは強い女性だった。テレーズのように愛を失い、よりどころを失って泣き崩れ
るような女性ではなかなった。だけどもしかしたらオデッサも、一人でこうして泣いて
いたのかもしれない。現実に打ちのめされ、孤独の淵で泣いていたのかもしれない。
 フリックとオデッサの関係は、テレーズとシンのような主従関係ではなかったが、そ
れでもリーダーとサブリーダーということで、恋人同士だとはいえ、互いに一定の線を
引いていた感は否めない。フリックとしては気高いオデッサを美しく思うと同時に、
もっと心を開いて欲しいという思ったこともあった。
 テレーズが涙に濡れた目でフリックを見た。潤んだ瞳は妖しく煌き、この世のもので
はない何かを感じさせる。頭上に輝くは満月。月の光がテレーズを包み込む。目の前に
いるのはテレーズなのか、それともオデッサなのか…?
「フリック…お願い、今だけ…」
 冷たい手がフリックの首に回る。ふっくらとした唇が眼前に迫る。と思った次の瞬
間、二つの影は一つになった。互いの体に腕を回し、激しく口付けを交わす。
「今宵は満月。これは、月の光がみせる幻…」
 フリックは激しくテレーズの唇を求めた。舌を絡め、唾液を吸い尽くす。テレーズも
臆するどころか積極的に舌を絡めてくる。歯茎の内側をなぞると、そこが性感帯なのか
小さく喘いで体中の力を抜いてフリックに体を委ねた。
 フリックはかけていたマントを脱がし、夜着のボタンを外した。子供のようにほっそ
りした体、陶器のようにきめ細かい白い肌、それはまさに芸術品であった。濃厚なキス
でほんのりと紅に染まっている。むき出しになった乳房はさほど大きくもないが形は良
く、乳首は痛いほど隆起している。テレーズもまた手を伸ばし、フリックの上着のボタ
ンに手をかけた。鍛え抜かれた逞しい胸板が露になり、テレーズはため息をつく。
 二人は横になることすら忘れて、立ったまま行為に没頭した。テレーズは壁に寄りか
かり、白い裸身を月光に晒す。フリックは首筋から鎖骨に首筋を這わせ、それから乳房
を包み込んだ。それほど大きくないため、力を込めるとテレーズの顔が痛みに歪む。フ
リックは乳首を吸い、甘噛みした。

「フゥ…ッン!アフゥ…」
 テレーズは眉を寄せ、必死に声を押し殺そうとしていた。しかし押し寄せる快楽に堪
えきれずにか細い声を上げる。その泣き声にフリックはさらに欲情してくる。もう目の
前にいるのがテレーズなのかオデッサなのか分からなくなっていた。
 フリックは跪いてテレーズの下腹部に顔を埋め、密林をかき分け秘所を舌で刺激した。
「ひゃう…ン!ダメぇ」
 テレーズは体をビクンと仰け反らせ、足を閉じようとした。しかしフリックの力には
叶わず、小刻みに震えながら壁に寄りかかり、フリックの肩をつかむことで体勢を保
つ。テレーズの秘所はすでに潤っており、愛液がトロトロと溢れ、太ももを伝ってコン
クリートに垂れる。フリックはわざと大きく水音を立て、その音に興奮したテレーズ
は、ますます秘所を濡らす。
「あ…ン、だめ、もう立ってられない…ッ」
 テレーズはずるずると床にへたり込み、肩で大きく息をする。目の焦点が合っていな
いところをみると、イッてしまったのかもしれない。だが、視線の先に見えるフリック
の屹立したモノを見るや、手を伸ばして触れる。そして体を起こしてそれを自ら口に咥
えた。
「ウ…」
 小さく呻いてフリックが心持ち身を引く。しかしテレーズは吸い付いたら離れず、喉
の奥まで咥えこみ、舌を使って丁寧に嘗めあげる。口をすぼめ、全体を絞るように。そ
して舌でかすかに先をくすぐるように。その強弱の波に呑み込まれ、フリックは軽いめ
まいさえ覚えた。口の中で、そそり立ったものはどんどん大きさを増していく。やが
て、解き放ちたい欲望が抑えきれなくなった。一心不乱にしゃぶり続けるテレーズの肩
に手を置いて、もういから、と引き離そうとする。
 しかしテレーズは小さく首を横に振り、行為を続ける。口をすぼめ、小刻みに舌先で
モノをねぶる。我慢の限界だった。フリックは盛大にテレーズの口の中に精を放った。

「ンンッ、ンゥ…ッ」
 収まりきらないどろりとした白濁液がテレーズの口からごぼごぼと溢れ、薄桃色にほ
てる体を汚していく。それでもテレーズは眉を寄せながらも必死で全部を呑み込もうと
する。その姿がいじらしく健気で、解き放って萎えたモノが再び大きくなってくる。
先っぽまできっちりと嘗め上げてからようやく口からモノを出す。体に付着した白
濁液さえも手で掬い取り音を立てて嘗める。月明かりの下に輝く、欲望に汚される聖
女。なんて淫靡な世界だろう。
ルナティック…。満月の夜は狂気の嵐が吹き荒れるという。まさしく今が狂気の夜で
なくてなんだというのだ。今だけ、狂気に身を浸していたい。フリックはそんなこと
をぼんやりと考えつつ、再び大きくなったモノを沈めるべくテレーズに襲いかかった。
フリックはテレーズを押し倒し、すらりとした足をM字に広げさせ、口を秘所に寄せ
舌で攻めた。
「はぁ…ん!イッ、いい…っ」
そして同時に指を入れ、膣内でめちゃくちゃにかき回す。テレーズの悲鳴が夜空を切
り裂く。激しく左右に首を振って、口からは涎さえ溢れさせている。
「お願い…、指だけじゃ、イヤ…ッ!」
 普段のテレーズからは考えられないような哀願の声だ。未婚の女性としての羞恥も市
長としての自尊心も掻き消え、ただの牝となって本能のままに嬌声をあげては腰を振
る。そんな彼女を見ていると、フリックもまた、普段みせることのない邪悪な部分が鎌
をもたげる。テレーズから体を離し、自ら床に仰向けに寝転がった。
「欲しいなら自分で跨って腰触れよ」
 だがテレーズは躊躇なくフリックに跨り、自分の手を添えて天に向かって突き上げる
モノを呑み込んだ。

 テレーズはいきなり最深部まで腰を沈め、鼻を鳴らして白い喉を仰け反らせる。一方
のフリックも、久々に味わうこの至高のひと時に身も心も危うく蕩けそうだった。しか
しここで主導権を握られるのも面白くない。フリックはテレーズの腰を掴むと、自ら腰
を突き上げた。リズミカルで乾いた音が響く。
「ひぃん!ひっ!」
 突き上げるたびにテレーズの上体が跳ね、小ぶりな乳房も上下に揺れる。長い髪が乱
れ、かき上げる仕草が劣情を掻き立てるほど艶かしい。フリックは速度を上げ、強さも
増した。次第にテレーズの声がかすれ、声にならない声になる。体がぶるぶると震え始
めている。フリック自身も、達する直前の頭が痺れるような感覚が襲っている。
 フリックは身を起こしてテレーズを抱きかかえた。抱きかかえたまま体を上下にゆ
すって刺激を与える。背中に回されたテレーズの腕の力が抜け、こちらで抱いていない
と後ろに倒れてしまうほど弛緩してしまっている。半分気を失っているのだろうか。首
ががくんと後ろに倒れて、途切れ途切れに切なげな声があがる。
テレーズの顔がぼやける。ああ、違う。オデッサだ。俺はオデッサを抱いている。月
の光に導かれ、このときだけオデッサが俺の前に現れてくれたのだ…。
「オデッサ…、オデッサ!」
「シン!」
 …二人は別々の人の名を叫びつつ、果てた。

 いつの間にか眠っていたらしい。フリックはテレーズのくしゃみで目が覚めた。すで
に東の空がほのぼのと明るみ始めていた。先に起きていたらしいテレーズは、きちんと
着替えを済ませていた。昨夜の乱れようなど想像もつかない、いつもの美しく可憐な女
市長のたたずまいである。

 夢のような激しい一夜を共にしたものの、陽の下で顔をあわせるとどうにも照れくさ
い。フリックはテレーズに背を向けてもそもそと着替えを始めた。別に恋人同士とい
うわけでもない。寂しかった二人が互いに肌を重ねただけ。だがそうやって割り切れ
るほどフリックは遊び慣れた男ではない。
「あの、昨日俺…」
テレーズは聞きたくないとでもいうように、階段に向かって駆け出した。それでもフ
リックはテレーズに声をかけた。
「テレーズ!俺、いつも夜はここにいるから」
 振り返ったテレーズは笑顔を浮かべた。凝り固まっていた膿が出きったかのような高
潔な微笑だった。間違えようもない。ただ一人の、テレーズ・ワイズメルその人だった。
テレーズは小さく頷いて階段を駆け下りていった。
 しかし、テレーズがこの場所を訪れたのは後にも先にもこの一度だけであった。

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