女王騎士たちの最後の思い出(ミアキス総受) 著者:ほっけ様

 はぁい、こんにちはぁ。ミアキスですぅ。
 ベルナデットさんのはからいで、私たちは今、群島諸国領のとある島に来ていましたぁ。
 姫様、いえ、今は陛下でしょうか。でも姫様、って言っちゃいますねぇ?
 姫様とリオンちゃんに王子、ゲオルグ殿にカイル殿にガレオン殿。
 そうそうたるメンバーで、こっそりとリゾートを楽しんじゃおう、という魂胆です。
 あ、でも季節はいいとして、時間軸とか政とかどうなっちゃってるんだって突っ込みはなしでお願いしますよぉ?
 お三方もまだ太陽宮に残ってるんですってぇ。

 太陽がとーっても眩しい…水着もかわいいのを選んできましたぁ。
 でも、カイル殿が社交辞令な心からの言葉をかけてくださっただけで、
 ガレオン殿は頷くだけでしたし、ゲオルグ殿は「そうだな」とあっさり。
 王子とリオンちゃんは似合う、って言ってくれましたけどぉ。ちょっと悔しいですよねぇ。

 …でも。
 でもですよ?!本日のメインは私じゃぁないんです。
 姫様です、姫様!姫様の水着姿!
 海水浴なんかおよそしたことないであろう姫様の水着姿は私もみたことはありません!
 お風呂で鼻血をこらえながら嘗め回すように姫様の肢体を見ることは、
 「よこしまだ」とゲオルグ殿や王子に釘を刺されてきましたが、
 今日なら!今日ならば!じーっとみたり軽い視姦なんかしちゃっても罪じゃぁないんですよぉ!

 はぁはぁ、待っててくださいねぇ、姫様?
 ――――すぐに、すぐにふたりっきりに…なれますからぁ、ね。

 ガレオン殿はふんどし姿で何故か切り立った丘の上、
 仁王立ちをした状態でざっぱーんと立つ波をBGMに黄昏れちゃってますぅ。何を考えてらっしゃるんでしょうねぇ?
 カイル殿は「ちょっと出かけてきますー」とどこかに行っちゃいましたぁ。
 女の人がお目当てなんでしょお。だって海パン姿でしたもの。
 …で、泳ぐ気はないのでしょうか。ズボンにアロハを羽織ったすがたで思わずハァハァしちゃう…いえいえ、
 逞しい体をビーチパラソルの下に落ち着けているゲオルグ殿はのんびりと片手にかき氷を持っていましたぁ。
 「チーズケーキをお奢りますからあ、それを私に渡して自分の分はまた買ってきてくださいねぇ?」と
 私のらぶりーなうわ目使いで誘惑して当分の食事を確保して、と…。
 …上目遣いより「チーズケーキ」のほうが効果があった、なんて言えませんよぉ。
 一応女で居させてください。え?食べかけじゃなかったか、って?いえいえぇ。手つかずですよぉ。
 私は別にゲオルグ殿なら食べかけでも構いませんけどねぇ。
 …でも、ちょーっと私のことを気にしてるみたいなんですよぉ。鋭いですねぇ。チッ。

 王子は陛下の血を色濃く受け継いでいるせいか、身体が日焼けせずに赤くなっちゃうのでぇ、
 リオンちゃんにサンオイルを塗ってもらって…
 あらあら、だめよぉ?リオンちゃん。そんな顔を紅くして息を荒げながらオイル塗っちゃあ。
 まだ水着を脱がせていないのがせめてもの救いでしょうかぁ…。
 …まあ、この二人の対処法はもう考えてあります。ふふ。
 と、いうわけでぇ…。

「あ、リムだ」
「皆、待たせたのじゃ。すまぬ」

 侍女さんにつれられて、姫様がやってきたらしいんですよぉ。
 いちはやく王子が気づいたのが何か悔しいですぅ。でも、でも、まずそのお姿をこの目に
 ぎゅうううううっ…と焼付けてぇ
「ほう、よく似合っているな」
 視線をがばっと上げた先には、それはもうおーっきぃ後ろ姿が姫様と私の間に立ちはだかるように。
 ゲーオールーグぅううう!! 狙ってるんですかぁ?!狙ってるんですねぇ!?
 くう、あのときトドメを刺しておくんでしたッ…いえいえ。がっついてはいけませ…
「食うか?さっきそこで買ってきたんだが」
「ほう、かき氷か…暑いからのう、気遣い、感謝するぞ。ゲオルグ」
「構わんさ」
 し、しまったぁぁっ!!
 ゲオルグ殿は割と気が利くことを忘れていました…ミアキス、一生の不覚!
 しかもこんなグッドタイミングで姫様の中の「かっこいいポイント」をゲットするとはぁ…!
 ゲオルグ殿の甘党!ロリコン!かいしょうなし! ええい、今なら糖分断ち三日で許してあげますから早くそこを退けぇぇっ!!
「姫様ぁ、待っちゃいましたよぉ?」
「わあ、陛下…よく似合ってらっしゃいます!」
「そうだな。素材がいいと…とは言うが、これほどとは」
「ほんとだ。さすがベルナデットさん、水着選びのセンスもいいね」
 私がさりげなーく言いながらぬしぬしと大またで近づいている間に、
 口々に姫様を賛美する言葉を発しながら姫様を取り囲んでいきます。嫌がらせでしょうかぁ?
 ああ、王子!ゲオルグ殿!リオンちゃんまでぇ…!
 姫様をそんないやらしい目で見ないでくださいよお!汚れちゃう!気高きファレナの華が汚れちゃいますぅ!
「そ、そうか?リオンに、ゲオルグに、そ、それに兄上も…さすがに、照れるのじゃ」
 あぁぁぁあ姫様ぁ!恥らった声も、妄想しちゃう仕草も素敵ですぅ!ささ、早くそのお姿を…っ!
 …と、ゲオルグ殿の眼帯兼はちまきを思い切り後ろから引っ張って姿勢を崩したところを
 持ち前の素早さで割り込み、その姿を――――― はぅっ!?

「ど、どうじゃミアキス?」
「…ひ、姫様…っ!」
 それはそれは、ごく普通のワンピースタイプの水着でしたぁ。
 いえいえ、さすがに「スク水」ではありませぇん。でも、太陽を思わせるオレンジ色の
 ぴったりとはりついた水着…群島諸国人の血がなす、健康的な肌色のおてて、おみあし……
 ぷにぷにしてそうな感触と、くりくりーっとしたおめめで、もじもじと私を見上げて…ひ、姫様ぁあっ!!
 その普段見られない結い上げたお髪ももう何もかも素敵ですぅ!
 今すぐこの場で押し倒してあんなことやこんなことをしたい衝動を必死で抑えながら…はふー、はふーっ…
「わぁ、かぁーわいいですぅ、姫様ぁ!お似合いですよぉ?」
「み、ミアキスまで…そ、その…あ、ありがとうなのじゃ…着てよかったのじゃ」
 ああ、そんな余計顔を赤くしちゃって恥らっちゃってぇー。
 今襲われちゃっても文句は言えませんよぉー?うふっ、ふふふふ…
「それでは、今日は皆、各々で精一杯楽しんでくれ!今のわらわには、これくらいしか出来ぬ。
 わらわはこれから身を賭して、太陽に愛されたこのファレナを護っていくこととする…
 わらわの手足となってもらうこととなるが…これくらいはのう」
「リム…」
「陛下…」
「…姫様…はい、わかりましたぁ!それじゃぁ、海で…」
 ふっふっふっふっふー!知ってるんですよぉ、姫様っ!
 海もプールも知らなかった、水浴びかお風呂くらいの経験しかないあなたが泳げないことをぉおおっ!!
 感極まってる王子とリオンちゃんを尻目に、私はこの身に宿るドス黒いながらもとーっても健全な欲望を
 ひた隠しにしながら、さりげなーく、手取り足取り泳ぐ指導をしてさしあげようと…
「では、一緒に泳ぐぞ!兄上、リオン!」
 …あれ?
「ミアキスは、ゲオルグと話があるのであろう?とても大切なことだとか。
 差し支えなければ後で教えるのじゃぞ?」

 ………し、しまったっ!ここまで手を打っていたとはぁぁぁっ!!
 ゲオルグ殿がそんな私絡みのことで嘘をつくわけがない、というみなさんの認識を逆手に取った、
 あくまでフェリド様と陛下に頼まれた「こどもたち」のことを、貞操含めて護るための策…!
 お、恐るべし、ゲオルグ・プライム!
「そっか…じゃあ、ミアキス。あとで一緒に遊ぼうね?」
「ミアキス様、海の家でもとっても美味しいお菓子があるそうですよ?
 みんなで一緒に、よろしければ後で行きませんか?」
 っ…くう、やはりこのお二人もゲオルグ殿を信じ切っている!ここで「そんなことないですよぉ」といえば、
 逆に私の信用が落ちてしまいますぅ…!
「よもや、ゲオルグと間違いはなかろうが…女王騎士たるもの、粛然とした厳格な志を忘れてはならぬぞ?」
 既に間違いはあっげふげふ。姫様まで…!
 後ろでゲオルグ殿は静かに笑っていましたぁ。どうせ私の不幸を喜んで心の中ではゲスに笑ってるんでしょうけどぉ!
 ああ、姫様と楽しいスイミングレッスン、姫様と楽しい夕暮れのティータイム、姫様、姫様…
「…それと、なるべく早く済ませてくるのじゃぞ?
 ミアキスとも、わらわは共に楽しみたいのじゃからな?」
 ……ひ、姫様ぁぁぁぁあ…!
 わ、私はもう、今死んだって構いませぇん!すっごく幸せですぅ!
「もちろん、ゲオルグもじゃぞ?」
「ああ」
 これは聞き流すとしてぇ。まぁ、いいでしょお。
「じゃあ、ゲオルグ殿ぉ、行きましょうかぁ。」
「…?あ、ああ。」
 さりげなーく腕を組んでぎゅーっと抱きついて仲の良い男女を演じておきましょぉ。
 ゲオルグ殿もどぎまぎして照れちゃってぇ。ええ、傍目から見て「引いてる」んですけどぉ!この人、まさかウホ…
 クックックッ…まあ、女の武器を最大限に駆使して、さくっとイイ状況にたどり着かないといけませんからぁ…。
「……ねえ、あの二人、いつからあんなに仲良くなったんだろう?」
「そうですね…でも、よかったです。あの後ですから、ぎくしゃくしてたらと…」
「ゲオルグもミアキスも、この国を思って動いてくれた…信頼できる者どもじゃ。
 志同じくしていたのだから…仲良くできるのは、嬉しいことじゃ。さ、兄上、リオン!早く行くのじゃ〜!」
 ふふふふふふふ。慣れ親しんだおふたりから見ても仲の良い恋人同士!
 しかしこれが狙いですぅ。 …そう、恋人同士があんなことするとは誰も考えませんからねぇ?

 ざっぱーん。
 …いまごろ、姫様は砂浜で王子とリオンちゃんとキャッキャウフフしてるんでしょぉ。
 なのに!私は何が悲しくてこんなむさくるしい眼帯甘党男と対峙しなきゃならないんですかぁ!
 …水着+武装と、ズボン一枚+武装という滑稽な格好でぇ。
 いえ、互い互いがそれぞれある層を狙えるというのはわかってますけどぉ。ぶー。
「…どういうつもりですかぁ?ゲオルグ殿。
 女の子をこんな人気のないところに連れ出すなんて、エッチなことでもするおつもりですかぁ?」
「とぼけるな、ミアキス殿…。
 お前の考えそうなことはわかっていた。ファルーシュとリオンや俺を引き離し、
 リムに手を出そうとしていることは…な」
 ぐっ。企画書がなくなっていたと思ったらゲオルグ殿がパクってたんですかぁ。抜け目が無い…!
 さっきまでガレオン殿がいたはずの小高い丘の上で、静かに私たちは対峙していましたぁ。
「…陽がくれるまでは、眠っていてもらうぞ…」
「ふふ、負けませんよぉ?姫様のために…っ!ロリコン眼帯を始末するのも兼ねて」
「…誰がロリコンだッ!」
 3本の白銀の輝きが、太陽の下舞い踊った。
 逆に構えたためかスピードが落ちているとはいえ、ゲオルグ殿の凄まじい剣撃…!
 受け止めたというのに、思い切り弾き飛ばされてしまいましたぁッ…
 でもちゃんとみねうちですねぇ。優しいですね、はいはい。
「くッ……!?」
「女王騎士は降伏を許されない…か、難儀なことだが…悪く思うな!」
 私もスピードには自信があったんですけどぉ、流石に相手が悪いですよねぇ。
 まるで燕みたいに襲い掛かってくる剣撃を、どうにか受け流して…危うくバランスを崩しちゃいました。
 ミアキス、ピーンチ? …だとお思いですかぁ?これだからシロートさんは困りますねぇ。
 …最大の障害であるゲオルグ殿への対策が、何もないとお思いですかぁ!?私は負けませんよぉ?

「ああーっ!あれはぁ!五つ星パティシエの集う「ル・ファレナ」の高級デザート満願全席ぃっ!」
「何ッ……?!」
 その手が止まり、ばっ!と後ろを振り向いちゃったゲオルグ殿。うっふふふ。
「ふふふ、ゲオルグ殿。隙だらけですよぉ?」
「………!」
 そのお背中に全力でドロップキックをお見舞いすると、さしものゲオルグ殿も地に足をつけることはかないませんでしたぁ。
 …でもよく騙されるほうが難しそうな嘘に騙されてくれちゃいましたねぇ。
「…ミアキスッ…!」
「ふふ、ご安心くださぁい、ゲオルグ殿。あなたのことは忘れませんからぁ…。
 チーズケーキ食べてた姿とか、チーズケーキ食べてた姿とか、チーズケーキ食べてた姿とか…!」
「おまえ――――」
 ゲオルグ殿が海に落ちて、ばしゃーんと遠い場所で水飛沫が立つのを見て、
 私はこみ上げてくる邪悪な笑みが抑え切れませんでしたぁ。クスクス。
 さぁ、一番の障害は消えましたよぉ!
 次は王子とリオンちゃんですねぇ…ふっふふふふふ。
 あのお二人を傷つけるのは流石にこたえますからぁ。
 …せめてお幸せなまま、夕方まで我慢していていただきましょお。ふっふっふ……

 …そう、その時まだ、私は気づいてなかったんですぅ。
 世の中そう上手くいくはずがないということも、
 …悪いこと考えちゃうとそれなりの報復がきちゃうことも…。

「姫様、その後は虎の方向に2歩ですぞ」
「と、とら?虎とはどっちじゃ?こっちなのか…?」
「リム、頑張れー!あとちょっとー!」
「陛下、足元にお気をつけてー!」
 あーあ。私がチーズケーキ魔人を仕留めてる間、ガレオン殿も混ざってキャッキャウフフなスイカ割りですか。
 あ…でも姫様が!姫様が水着で目隠しッ…!?
 な、なんてぇ…なんてハードでアブノーマルなんですかぁ!で、でも、これは…
 す、凄すぎますよぉ!くう!誰の発案かわかりませんけどGJですッ!!
「……ここかぁっ!!」
「がふっ!? …お、お見事ですぞ…陛下…ッ!」
「ガレオーーーーンっ!?」
「ガレオン様ッ!?」
「む!?が、ガレオン!?大丈夫か!?すまぬ、目を覚ませ!」
 ああ!姫様の持っていた木の棒がガレオン殿の脳天に直撃!
 いえ、でもより問題なのは姫様が目隠しをとってしまったところ…いえいえぇ!待ってくださぁい!
 そ、その目隠しをよもや私に「つけるのじゃ、ミアキス」と微笑んで渡しちゃったりしてぇ。
 あ、ああぁあ姫様ぁっ!もっとなじってくださぁい!ぶってくださいぃ!姫様ぁぁあ…っ!
 ……とと、いつまでもトリップしているわけにはいきません。仕込みはばっちりです。
 とぼとぼと、おなかの前で手を組みながら、4人に近づいていきますよぉ。
「む…仔細在りませぬ。失礼仕った」
 あ、ガレオン殿が復活しましたねぇ。人間…?
「よかった…コブもできてないね、うん」
「そうか…すまぬ、わらわの配慮不足であった。反省せねば…ん?」
「あ、ミアキス様!こっちです!」
「おお、ミアキス殿か…先にやっておりますぞ」
 宴会に遅れちゃったみたいな扱いを受けましたぁ。でもいいんですよぉ?ふふふ。

「…あれ?ゲオルグは?」
「…ゲオルグ殿?」
「そうですよ。さっき一緒に…」
 ふっふっふっふっふ…ここです。ここですよぉ!
 俯いて、じわりと目を潤ませて…くっ!と…
「……し、知り合いの女の人と…ぐ、偶然鉢合わせてしまってぇ…
 すっごく仲がよろしいようでしたので、ぇ…さ、先に戻ってきちゃいましたぁ!」
 これです!秘策、「昔の女に好きな人をとられて、寂しく帰ってきたけど全然つらくないから☆」と強がる
 切ない女の子の一夏の思い出…! これを私の演技力とミックスしますとお。
「…ゲオルグが?まさか…でも…」
「そんな、酷いです!ゲオルグ様、ミアキス様と…」
「むむむ…あやつがそんな酷い奴であったとは!見損なったわ!」
 三者三様の私の心配……してない気がしますけどぉ。
 ふっふっふ、これでゲオルグ殿のイメージダウンは確実ですねぇ?これで姫様にも迂闊に近づけはしないでしょお。
「…如何やら、ゲオルグ殿には1から女王騎士の心得たるを教えねばならぬようですな」
 どっから取り出したやら戟と盾をお持ちになったガレオン殿。
 やる気になってぬっとその場に仁王立ちになりました!
 し、渋いですぅ!格好いいですよぉ!ええ、ふんどしがばっさばっさはためいてるのが気になりますけどぉ…!
「陛下、みなさまは楽しんでいてくだされ。わが輩は、女王騎士としての務めをまっとうして来ます故」
「ガレオン…」
「ガレオン様…」
 ずしーんずしーんと向こうに行ってしまったガレオン殿。ああ、何とたくましいんですかぁ…!
 あなただけは非道な罠にはめたくなかったんですぅ!うう。本当によかった…
 …結果的に騙す形になっちゃいましたけどぉ。
「…ねえ、ミアキス、遊ぼうか?いやなことは遊んで忘れよう?
 ゲオルグには、あとで聞けばいいんだからさ」
「そ、そうですよ!」
「リオンちゃん、王子……」
「あれー?ゲオルグ殿とガレオン殿はどうしちゃったんですかー?」

 …いいところにぃっ!
 姫様の慰めの言葉をもらおうとしたところで、背の高い影…
 いつの間にか近くにいたカイル殿が、私たちに声をかけてきてくれましたぁ。
 …ふふっ。まあいいでしょお。これも計算のうちですからぁ…うふふふふ。
「あ、カイル殿ぉ!」
「おお、カイルか!さっきぶりじゃな。用事とやらはどうした?」
「済ませてきましたよー。これでようやく気兼ねなく遊べるってもんです」
「あ…わかった。カイル、フられた?」
「お、王子っ!」
「あはは、王子にはかなわないなー」
 フレンドリーな空気。まずはカイル殿から―――
 …なんていうのは素人考えですよねぇ。うっふふふふふ。
 このすました3枚目さんに苦渋を味合わせる前に、まずは…このおふたりから。
 ふふ。姫様ぁ、待っていてくださいね?夢の世界には…一歩、一歩…
「カイル殿、ちょっと姫様いいですかぁ?
 姫様ぁ、ちょっと出かけるので、王子とリオンちゃん借りますねぇ?すぐ戻ってきますからぁ」
「え?俺はいいですけどー」
「何じゃ?どこに行くのじゃ、ミアキス。折角に一緒に遊べると思うたのに」
 あふぅうっ!く、口を尖らすなんて姫様あーっ!!
 あ、ああ、今でもその口を啄ばんで吸い付いてあんなことやこんなこと…!
 でも急いではいけません!…ふふふふふ。ああ…くちびる…。
「ごめんなさぁい。でも、すぐに…ね?王子、リオンちゃん、ちょっといいですかぁ?」
「ん?いいけど…リオンは?」
「王子が行かれるなら私も行きますっ!」
「それじゃあ、カイル殿…姫様にへんなことしちゃダメですよぉ?」
「な、何を言うておるのじゃミアキスッ!」
「あははー、わかってますよー」
 本当に手ぇ出したらナマスどころじゃすみませんけどねぇ。ふっふっふ…。
 談笑するリオンちゃんと王子をつれて、私たちは沖合いの岩場に向かいましたぁ。

「…小船?」
「え…どういうことですか、ミアキス様」
「はぁい。知ってますかぁ?王子、リオンちゃん。あの無人島」
 指さした先、海の向こうにぽつんと見える孤島。ええ、もちろんただの島です。ちょっと大きいだけの。
 …でも、そんなことは王子もリオンちゃんも知らないんですよねぇ。
「あそこには、縁結びの祠、っていうのがあるんですよぉ?」
 ピク。
 …ふっふっふ、私の眼は誤魔化せませんよぉ?おふたりとも若いんですからぁ。
 身分の差って恐いですよねぇ。私もわかります。うふふふ…で・す・か・らぁ。
「お疲れ様のプレゼントですぅ。ただのお呪いですけど、結構有名なんですよぉ?
 姫様に内緒で…こっそり、ね?」
「ミアキス…」
「…ミアキス様…あ、ありがとうございますっ!」
「いえいえぇ。オールは船につんでありますのでぇ。ごゆっくりぃ」
「はいっ!」
「じゃ、行ってくるよ。 …行こうか…リオン」
「王子………」

 おふたりがらぶらぶしながらお船に乗って、ピンク色の風を纏われながら
 ゆーっくりと進んでいくのを、私はじぃっと見守っていましたぁ。
 ――――そして暫く座り込んで待っていましたよぉ。うふふふ…なぜなら!

 どばーん

 無人島の近くから、大きい水の柱が上がりましたぁ。うふふふふ。
 ええ、船には時限式の烈火の紋章の魔法をかけておいたんですぅ。
 お二人が船から一定距離はなれると…発動。ふっふっふ、これでも女王騎士の中では紋章が一番すごいんですからぁ。
 海にはくらげの巣。陸にはあんまり強くない巨大蟹……おつかれの後は、
 祠の中でキャッキャウフフ…ふふふふ、そして私も姫様とぉ…うふ、ふふふっ…
 頑張って作ったミアキス印のお船を自分で海の藻屑にするのも抵抗ありましたけどぉ…必要な犠牲、ですよねぇ?

 …ここで計算外でしたぁ。岩場からひょこっと顔を出して遠くに見えるのは、カイル殿と姫様のはず。
 …でも、見えるのはガレオン殿と姫様です。よねぇ?どう見ても。
 カイル殿は一体どこに―――  …!?
「はーい、つかまえましたよー。」
「んむぅっ…?!」
 唐突に背後から口をふさがれ、片手を引っ張られ、ぐいぐいと岩場の影に引きずりこまれてしまいましたぁ。
 カイル殿!?…いつの間に!
「だめですよー、ミアキス殿。悪いことかんがえちゃ」
「ぷはっ…な、何のことですかぁ?駄目ですよ、カイル殿ぉ、セクハラは…」
「残念だが、お前の野望もここまでだな、ミアキス殿」
 そこに颯爽とあらわれたのは……
「よう」
「あ、大丈夫でしたー?ゲオルグ殿」
 …くっ…!迂闊でしたぁ…!最初からこの二人、グルになって私を姫様に近づけまいとお…!
「すまなかったな、カイル殿」
「いえいえー。 …ほーら、反省しないと、ミアキス殿。
 …俺の大事な人たちに、あろうことかあんなこととかこんなことしようだなんて…ね」
「んっ………」
 耳元で艶かしく囁かれ、吐息を吹きかけると…その。
 まだ若い体はぞくぞくっとしちゃいました。ああ!こんなことしている場合じゃないのにぃ!
 姫様、姫様がぁ…!うう、姫様ぁ、なんてしているところ、ゲオルグ殿に顎をつかまれてしまいました。
 うぅ、確実に怒ってますよねぇ…?青い炎がぁ…よく見ると、カイル殿にもぉ…
「野望だか何だか知らんが、お前に勝ち目はなくなったようだな。 …少し仕置きが必要なようだ」
「ふむぅっ…んんぅ」
「あ、ゲオルグ殿ずるいですよー。 …じゃ、俺はこっち。お仕置きです」
「んふっ…んーっ!」
 ゲオルグ殿に唇を奪われ、カイル殿が水着の間から胸に手を差し入れて…
「あ…意外と。ミアキス殿、着やせはもったいないですよー?」
「んんっ…んふ…ぅ…んっ」

 やわやわと私の胸を揉むカイル殿の手と、深いキスでのゲオルグ殿の舌使いは…ですねぇ、その。
 経験がない、私の…素人目からみてもですねぇ、とても、とてもお上手でしてぇ…あの。
 っぁ…だ、だめですぅ、ゲオルグ殿、そっちに手は…
 ふぁ…あ、あ…カイル殿も、摘んじゃ…ぁうっ!

 …ひ、っ…だ、駄目…同時、はぁ…
 ……ぅうあっ! ぁ、かはっ……
 い、あう…あっ、ああっ……ん、ぁ……

 …あぁっ――――――!!

「……………うぅー…」
 あの手この手その手の「お仕置き」を数十分されちゃった私は、心身ともにへろへろでしたぁ…
 自業自得とはいえ、この腰の痛みは……っ
 それにぃ、さんざんぐちゃぐちゃにしておいて放置だなんてぇ…!
 あの人たちだって、騎士の名前は似つかわしいですよぉ!
 …と、とりあえず、海水で汚れは洗い流して、水着も調えて…腰を抑えながら、戻ろうと…

 ざざっ…ざぱっ…ばしゃばしゃ、ざばぁっ。
 …ひた、ひた。 ひたひたひたひた。
「……ぁ…」

 海から出てきたのは、ええ、とっても恐い影がふたつでしたぁ。
 濡れてたれた前髪からは表情はうかがえませんでしたが…えぇと。
 物凄く荒い息は、とぉってもお疲れの様子でしてぇ…ええ。
 黒髪と銀髪……あ、あー…っと、そのぉ。前髪の間から、「ぎゅぴーん」っておめめがお光りに…
「…ただいま、ミアキス…」
「すっごく楽しかったですよ…ミアキス様…」
「あ、あは、あははは…お、王子にリオンちゃぁん。た、大変でしたねぇ…?!」
 恐いっ!物凄く恐いですよぉ!しまった…!私、この人たちの潜在能力も見誤ってましたかぁっ!
 手負いの獣に睨まれた私は、じりじりと後ろに後退するしかなく…
「…ゲオルグから聞いたよ」
「姫様を…あろうことか…ッ…そのために私たちを…!」
 え、ちょっと歪曲して伝わってませんかぁ!?
「…行きますッ!」
 ふ、とリオンちゃんが消え…どこにって言う前にさっき見たいに後ろからがっちりと掴まれちゃいましたぁっ!
 え、何で王子、怒り状態で血の涙を流してるんですかぁっ!?
「王子っ!」
「よくも……よくも、ぼくのリムをぉおおおおおっ!!!!」
 あなたのじゃねぇぇぇぇぇぇえ!!!っていうか、まだなにもしてませーーーーんっ!!

「…はぁ、は…はぁはぁ…う、ううー…」
 腰が痛いです。とーっても。あろうことか、女同士も一緒に体験してしまうとはぁ…。
 若いエネルギーを思いっきりぶつけられて、這うように私は海岸に…ぅー。
 他のみなさんも姫様のところに…こんなことになるなら、最初から…

「遅いぞ、ミアキス!」
「……へ?」
 …姫様が、私の目の前で、しかめっつらで腰を手にあてて、ぷーっと膨れていました。
「待っておったのじゃぞ?全く」
「…ひ、姫様…?他の、みなさんは…」
「何を言うておる!泳ぎを教わるのは二人きりがいいとそなたが言っておったというから、
 気を利かせて他の者どもは先に帰ったわ!
 ほら、何をしておる?さっさと行くぞ、ミアキス!
 海で泳ぐのははじめてなのじゃ!ミアキスは泳ぎが……、ミアキス?何を泣いておるのじゃ?」
 ……私は、何てことをしてしまったんでしょう。
 こんなに…優しい人たちを。
 邪魔者といったり…姫様が好き、ということを言い訳にして…最低、ですねぇ。
 自惚れすぎて…調子に乗って…色んな人を、傷つけた…駄目な女王騎士なのに。私、私はぁ…
「ひゃうっ!?み、ミアキス、一体どうしたというのじゃ!?」
「な、なんでもないんですぅ…なんでも…」
 ぎゅうっと姫様を抱きしめて、あの人たちの優しさを、大好きな姫様を感じます。
 …どれだけ謝ればいいんだろう、こうして、ゲオルグ殿も、王子もリオンちゃんも、傷つけちゃったのに…
「…姫様、泳ぎましょうかぁ。ちょっと、海水って目に染みちゃうんですよぉ」
「う、うむ、そうか?無理をしているのではないか?」
「全然ですよぉ。行きましょお?」
「大丈夫ならいいのじゃが…うむ、では頼むぞ。ずーっと楽しみにしておったのじゃ!
 一生懸命やるぞ!」
「はぁい。がんばりましょお!」

…。
「どうじゃ、ミアキスっ!」
「姫様、あんまり深いところにいっちゃ駄目ですよぉ?あは、そうですぅ、その調子っ」
「っぷは…ふふふ、そなたに追いついたかのう?もうこんなに長く泳げるのじゃ」
「ふふ、私も負けませんよぉ?そうだ!ここから浜辺まで、競争しましょうか!」
「負けぬぞー?もしわらわが勝ったら、そなたの夕飯のデザートを貰うぞ?」
「えー、それはちょっとヤですよぉ。負けられませんねぇ、それじゃ、行きますよぉ?」
「よーい…」
「「どん!」」
 姫様は、泳ぎもとってもお上手でしたぁ。
 フェリド様は群島諸国出身ですし、陛下も運動が得意でしたから…。
 それに、楽しいから、やる気が出たんでしょぉ。すっごくお上手になっちゃったんですよぉ。
 にこにこって笑う姫様は、まるで太陽みたいでしたぁ。
 ふたりでいっしょに。 …でもきっと、みなさんと一緒でも、とっても楽しかったですぅ。

「…ふう…同着とはのう。ミアキス、よもや手を抜いておったのではあるまいな?」
「ふぅ、はぁ…いえいえぇ、私はちゃーんと全力でしたよぉ?姫様、さすがですねぇ?」
「そうかのう?でもまだまだじゃ。兄上ももっと速いそうではないか!明日はみんなで競争じゃな!」
「…明日?ですかぁ?」
「そうじゃぞ?急遽船の便が変わってな、明日も結局滞在することとなったのじゃ。
 こんなに遅くまではいられぬが、午後は街を視察じゃ。お忍びは、結構融通が利く」
「……そうですねぇ、みんなで…ふふ。」
 水平線の向こうへ沈み行く夕焼けを、ふたりでならんでぼんやり。
「…姫様ぁ、そろそろ行きましょうかぁ?」
「うむ、そうじゃな。ミアキス、明日こそは大差で勝つぞ!」
「ふふ…」

 所定の場所で着替えをすませました。
 姫様をお送りするお仕事もありましたけどぉ…謝らなければ。今までしたことないくらい深く。
 そんな気持ちでちょっと焦っちゃって、かえって時間かかっちゃったんですよねぇ。
「ふう、ちょっと疲れたのう…」
「おんぶしてあげましょうかぁ?」
「む、バカにするな。歩けるぞ!」
 宿への道はちょっとありますけどぉ。それでも、灯りの眩しい夕方の街はにぎやかでしたぁ。
「…ぁ、ガレオン殿」
「おお、ガレオンか!どうしたのじゃ」
「お迎えに馳せ参じました…陛下、ミアキス殿、こちらへ」
 今しか、ないと…。思いましたよぉ。すっごく。
「ガレオン殿、姫様をお願いしますっ!」
「ミアキス!?」

 駆けました。早く、早く。
 底抜けの愚か者な私が…許されるとは、思ってませんけど…!

「ご心配なされぬよう、陛下。迷うのもまた、ひとのさだめ。
 明日にはまた、立派な女王騎士としての顔をお見せすることでありましょう…」
「何か、あったのか…?」
「老兵にはわかりかねる機微ではありますがな…」
「むう…色々あるのじゃな。わらわには、あやつらはとても仲良く見えるのじゃが」
「…間違っておりませぬ。陛下…さ、行きますぞ」
「ん?うむ……?」

 受付でお部屋を聞いて、あわただしく階段を上がる。
 ちょっとお行儀は悪いんですけどねぇ。
 全員偽名で泊まってますからぁ、ちょっと首を傾いじゃいましたけどぉ
 …2階の、一番奥からひとつ離れたお部屋でしたぁ。
「し、失礼しますぅっ!」
 乱暴に扉をあけると、4人分の視線がこちらに。
 …楽しく、トランプをやっていましたぁ。 …ずき、と胸が痛みます。
 ちくちくと、不安が募ってきます…自業自得、わかりきっているというのに。
 この人たちに拒まれてしまうことが…
「あ…おかえり、ミアキス!」
「何をしている?座らんのか?」
「一緒に遊びましょーよ、ミアキス殿ー」
 …ぁ、
「ミアキス様、ポーカーしましょう?ミアキス様、お強いですよね?
 だから、みんなでミアキス様に勝てるよう、特訓してたんですよ?」
「………ッ、」
 いつものように、穏やかに笑ってくれるひとたち…。
 …おこがましいのかもしれません、けど、嬉しくて、嬉しくて…。
「きゃっ…み、ミアキス様!?」
「ごめんなさい、ごめんなさいぃ…私、私ッ…」
 ぎゅっとリオンちゃんに抱きついて、泣いちゃいました。
 それを…きゅっと優しく抱き返してくれました。
「ミアキス様…大丈夫ですよ」
「う、うぅ…リオンちゃぁん、ゲオルグ殿、カイル殿、王子ぃ…
 みなさん…なんて、いいひt」
「もちろん」
 …へ?
 と、見上げると…ええ、みなさん、笑っていましたぁ。
 …でも、目が笑ってないんですよねぇ。むしろ、据わって…あは、ははは…え?

「…あの恨みは、これくらいじゃ晴れないけどね」
 すくっ。
「甘党でロリコンで眼帯…か、言ったものだな…」
 がたっ。
「大体、俺のこと途中で忘れてたじゃないですか。ひどいですよねー?」
 いそいそ。
「巨大蟹…蟹狩りの人に助けてもらわなかったら、私も王子も…ふふ、ふふふ…」
「え、ぇ…?」
「「「「協力攻撃・お仕置きファレナッ!!!」」」」

 ぎゃあああああああああああああっ!!!

 ……4人の熱い絆とチームワークでぇ、四十八手コンプリート…でし、たぁ…。
 う、うう…体が痛くて動きません…部屋も暗いし、みなさん、疲れて寝ちゃってますしぃ…。
「ミアキス……」
 …げ、ゲオルグ殿がおきていらっしゃったみたいです。うぅ…まだお仕置きですかぁ?
 でも、しかたないですよ、甘んじて受けましょう…。
 …でも…私の頬を撫でてくれる手は、とても暖かいんですよね。
 明日は…ちゃんとしないと駄目ですよねぇ…許してくれるでしょうかぁ。

 いえ…ずっとみんなで…。そう思わせてくれる、カイル殿、リオンちゃん、王子、ガレオン殿、姫様…。
 …そして、ゲオルグ殿も…ずっと。
「俺は、ファレナを出ることにしたぞ」

 …待てや!

劇終。

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