雲のように風のように(リューグ×ミアキス→ゲオルグ) 著者:10_114様

若き王子が戦乱を平定して後、「彼」は行き先を告げずに去っていった。
誰に縛られることもなく、つかみどころのない雲のように自由な風のように。
わたしは彼に憧れにも似たその感情を抱いていて、けれどそれを伝える事はしなかった。
自由な彼を繋ぎ止めるような事はしたくなかった、否、そんな事は出来はしないとわかっていたからだ。

自作のチーズケーキをつつきながら、ミアキスは窓から広がる空を見上げた。
口の中いっぱいに広がる甘酸っぱい味は、自分で言うのも何だが上出来で
料理の腕はからきしなのにチーズケーキ作りだけは上手くなってしまった自分に苦笑する。
「まぁ…自己満足なんですけど、ねぇ」
そう一人ごちてミアキスは残りのケーキを口の中に放り込む。
柔らかい舌触りで口の中でとけてなくなる感覚。
いつか、時が経ったら、こんな風に想いや気持ちもとけてなくなってゆくのだろうか。
どうせいつか消え行くなら、今なくなってしまえば良いのに。
過去に囚われるなんてきっと彼ならよしとはしないはずなのに。
悲しいかな自分は未だ彼のような強さを自分は持っていない。
そばの居られないならせめて、彼のように強くありたいと願い続けているのだけれど。
「かっこわるいなぁ…わたし」
冷えて香りのなくなってしまった紅茶を喉に流し込む。
時計をちらりと見やる、五時十分、姫様の午後の勉強ももう終わる頃だ。
迎えにあがらねばと食器を片付けミアキスは自室を後にした。

幼くして女王となったリムスレーアの一日は忙しい。
以前までの勉強の時間に加えて公務もある。
殆んど自室か執務室に篭りきりになってしまっていて、ミアキスがリムに付き従うのは極わずかな時間だった。
「わかっておったつもりであったが…女王というのは肩が凝るのう」
ミアキスの隣りを歩くリムスレーアは大きく溜息をついた。
「仕方ないですよ、今はファレナを立て直さなければならない時ですからぁ」
「うむぅ…それは重々承知しておるが、こうしてミアキスや兄上と話す時間もロクに取れぬ」
「ふふ…姫様寂しいんですねぇ?王子も騎士長代理として忙しくしてらっしゃいますからぁ」
「だっだれも寂しいなどとは言っておらぬ!」
声を上ずらせてプリプリと怒っているリムが可愛くてミアキスは笑う。
こういったお馴染みのやりとりがリムスレーアの息抜きになればいい。
今、自分がリムにしてやれる事はこれぐらいなのだから。
「そっそうじゃ!ミアキスそなた兄上に渡すものがあるじゃろう。
竜馬騎兵の太陽宮駐留支部の要項だったか…兄上が捜しておったぞ?」
「あらぁ、いけませんすっかり忘れてましたぁ」
「…そなた」
「大丈夫ですぅ。書類は頼んでありますし、後は受け取るだけですからぁ!」
呆れたような顔をしてリムは大仰に息を吐いた。
経験上ミアキスには何を言っても無駄、というか言いくるめられてしまうのがわかっているので、それ以上は何も言わない。
「ならば早う兄上に渡しに行くがよい」
「えぇ〜でも姫様お一人で大丈夫ですかぁ?」
「馬鹿にするでない!部屋にぐらい一人で戻れるわ!早う行かんか」
「はぁいわかりましたぁ…」
しぶしぶ去っていくミアキスの後姿を見送りながらリムは今日三度目の溜息をついた。
ここ最近のミアキスは様子がおかしい。
自分といる時はおくびにも出さないが、ふと見かけるとぼんやりしている事が多くなったし
よく眠れていないのか、心なしか表情も冴えない。
「わらわはそんなに頼りにならぬかのう…」
どんなに背伸びをしてみても自分は子供、仕方がないことはわかってはいるのだけれど
いつ如何なる時も自分に尽くしてくれた彼女に報いる為には経験が足りない。
「…わらわはまだまだ学べばならぬな」
強い意志を瞳に、リムスレーアは踵を返した。

「あ、いたいた!リューグちゃん」
目的の人物を発見してミアキスは駆け寄る。
呼ばれて振り返ったリューグもミアキスの姿を確認し顔を綻ばせた。
「詰め所の方にいなかったから探したよぉ?」
「悪い悪い、書類を取りにきたんだろ?もうとっくに出来てるぜ
部屋に置いたままだから少し待っててくれ、今もって来る」
「ならわたしも一緒にいくよぉ」
「そっか」
頷いてリューグはミアキスを連れ立って歩き出した。
新設された竜馬騎兵隊宿舎は詰め所の裏手にある。
外に出ると既に日は落ち始めていて辺りは薄暗く足元に長い影を落とす。
ミアキスは自分の少し前方を歩く幼馴染の背中をぼんやりと見つめた。
そういえば自分はよくこんな風に「彼」の背中を見つめていたように思う。
戦場で、敵を一太刀で斬り伏せる。その姿に戦慄し、そして激しく憧れた。
その後姿を幼馴染の背中に重ねて、ミアキスは小さく首を振った。
忘れようと思っていてもふとした時に思い出してしまう。
忘れることも出来ないのに想い続けるのも辛くて。
何一つままならない自分が嫌になる。
「着いたぞ」
声をかけられ急に現実へと引き戻される。
はっとして顔を上げるとリューグが何かもの言いたげな顔してミアキスを見つめていた。
「ここがリューグちゃんの部屋かぁ…ねね、入ってもいい?」
ミアキスは何事かリューグが口を開こうとするのを遮るように無理やり笑顔つくる。
「…いいけど」
どこか釈然としない表情でリューグはミアキスを部屋へと招き入れた。

「へーえ…結構綺麗にしてるんだねぇ」
くるり、と部屋を見渡してミアキスは呟く。
まだこちらに来たばかりだからか、部屋に物は少なく生活感はあまりない。
「サウロニクスのリューグちゃんの部屋はなんかこう…雑然としてたけどぉ」
「あーたまにラハルの奴が無理やり掃除しに来たりしてな」
「あはは!ラハルちゃん綺麗好きだからねぇ」
「あぁ、あったこれだ」
ミアキスは手渡された書類に軽く目を通す。
「…リューグちゃんもちゃんとこんなの書けるようになったんだねぇ、わたし感動しちゃいましたぁ!」
「お前…オレを馬鹿だと思ってるだろう…」

そんな話をしてひとしきり談笑した後
「じゃあこれ王子に渡さないといけないから」
礼を言って部屋を出ようとドアノブに手をかけたミアキスの腕をリューグが掴んでそれを阻んだ。
「なに」
顔は向けずにミアキスは掠れた声を絞り出す。
「…お前最近なんかヘンだ」
「…そんなことない」
俯いたミアキスの表情はリューグからは読み取れない。
「王子殿下も他の奴らも心配してる」
ミアキスは黙って床を見つめたまま何も言わない。
「………ゲオルグ殿のことか?」
「!!リューグちゃんには関係ない!」
ミアキスは声を荒げた、その名前は聞きたくなかった。
瞳に宿った怒りと悲しみの色にリューグはやっぱりそうか、と小さく呟く。
彼の姿を目で追っているミアキスに気づいたのはもう随分前のことだった。
やがてそれが恋焦がれるような視線へと変わるのも。
自分もまたミアキスを見つめ続けていたから。

「そんな顔するぐらいなら追いかければよかったじゃないか」
パンと乾いた音がしてミアキスはありったけの力でリューグの頬を打った。
好きだから追わなかった、追えなかった。
今にも泣き出しそうなミアキスの震える肩をリューグは抱き寄せる。
「はなして…」
「知ってるだろ…オレはお前が好きなんだ、好きなんだよ…」
そしてそれが叶わない事も。
ミアキスが自分に向ける情が家族や友の親愛以上には成りえない事は彼女を見つめ続けていたリューグには痛いほどわかっていた。
ミアキスは応えない。
「お前が望むなら…陛下も王子殿下も笑って送り出してくれるさ、だから…」
リューグの言葉をどこか遠くに感じながらミアキスは唐突に、理解した。
リューグも私も同じなのだと。
好きだから、愛しているからこそ相手の自由を望んでいるのだ。
そこに自身の幸せがなくとも。
硬く握りしめられていた手のひらから力が抜ける。
虚ろな気持ちでリューグを見上げると、悲愴なまでに真摯な瞳とぶつかった。
ああ、あの時、彼を送り出した時、自分もこんな顔をしていたのかもしれない。
ミアキスは手を伸ばし先ほど自分がうった、少し赤くなったリューグの頬に触れる。
そしてそのままそっと、口付けた。
「お前…」
けして愛情などではない。
傷の舐め合いでもいい。
何一つ思い通りにならない自分自身に疲れきってしまった。
偽りだらけの優しさでいい、抱きしめて抱きしめられて今だけでも何もかも忘れてしまいたいと、そう思った。

衣服は既に取り外され、簡易な作りのベッドがギシリと嫌な音を立てる。
「本当にいいのか…?」
躊躇うようにそう問うリューグにミアキスは答える代わりに背中に腕を回した。
頬に首に胸に口付けが落とされる。
優しくなんてしなくてもいいのに、非道い女だと罵られるほうがどんなに楽か。
そんな思いとは裏腹に、リューグの手は優しく壊れ物を扱うかのようにミアキスに触れる。
耳たぶを舐められ柔らかな胸を揉まれると、ミアキスの唇からは浅く快楽の声が漏れた。
片方の手が下腹部の下へと滑らせる。
既に熱を持ち潤んだそこが、ぬちゅと水音をたて指を受け入れた。
浅く秘裂をなぞられてミアキスの顔が快楽に歪む。
はぁはぁと荒い呼吸を繰り返しているとそれすら口付けで阻まれた。
太い指が秘部へと差し込まれミアキスは小さく震える。
浅く深く指が抽送されると堪らず声がもれた。
心は痛みを望んでも浅ましい自分の体は快楽を欲している、この行為にはなんの意味もありはしないと云うのに。

「あああ!」
ぐりと、肉豆を摘み上げられてミアキスの体が痙攣した。
白い腹を上下させながら快楽をやり過ごす。
頭は霞がかかったようにぼんやりとしていて、はっきりとしない。
虚ろな目でリューグを見上げると、彼の顔にありありと苦悩の色が見てとれてミアキスは目を逸らした。
背中に腕をからめ、リューグの胸に顔をうずめ自らの視界を遮る。
解すように秘裂の中を弄んでいた指が引き抜かれ、脚を大きく開かせられた。
行為の先を予測して、秘部からはたらりと愛欲の証がこぼれ落ちる。
そこに熱く大きなものがぐいと押し付けられて、次にくるであろう衝撃に備えてミアキスは硬く目を閉じた。
「!うぁ…あああ!!」
指とは比べ物にならない大きなものが内壁を割り裂きながら進入してくる。
だがリューグはそれ以上動くことはしない。
肩で呼吸しているミアキスが落ち着くのを待っているのだ。
「いい…の、リューグちゃ…優しくしないで」
苦しげに眉を寄せてミアキスは訴える。
「お願い…ひどくしていいからぁっ!」
言い終える前に深く突き上げられミアキスは悲鳴を上げた。
責めるように、きつく中を抉られてぐちゅぐちゅと結合部から激しい音が上がる。
痛みと快楽の狭間でミアキスの目尻にかすかに涙が浮かんだ。
これで、いいのだ。元より愛情からの行為ではないのだから。
それでも内壁を擦りあげられれば堪えきれずに甲高い声が上がってしまう。
浅ましい自分を嫌悪しながら快楽を追おうと腰を浮かせる。
リューグは最奥を突きあげながらミアキスの胸を形が変わらんばかりに激しく揉みしだき獣のように嬲った。
絶えず繋がりあった部分から水音がもれる。
お互いに限界が近いのを覚ってリューグはより一層激しくミアキスを突き上げた。
「ひあっ!うあああぁ!」
耐え切れず、縋る様にミアキスはリューグの背中に爪をたてる。
過ぎた快楽に逃げようとする腰を掴み、息つく間もなく更に高みへと追い立てられる。
目の前が真っ白になる感覚と共に、がくがくと体が震わせてミアキスは果てた。
荒く息をしてゆっくりと意識が遠のいていくのを感じる。
ぼやけた視界で最後に見たリューグの顔は、泣いているように見えた。

まだ眠っているリューグを起こさないようにミアキスはそっとベッドを抜け出した。
覚束ない足取りで部屋を出るともうすっかり陽は落ちていて、雲一つない夜空に浮かぶ満月がぼんやりとミアキスの顔を照らした。
自由な彼に憧れる自分はちっとも自由じゃない。
がんじがらめの自分の心を嘆いてみても、何ひとつ変わりはしない。
愚かな自分の頬を冷たい夜風がうつ、ミアキスは「彼」に叱られているような気がして俯いた。
ひとつふたつ、涙のしみが無機質な石の床に広がる。
ミアキスは「彼」がいなくなって初めて
声を上げて、泣いた。

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