ツヴァイク×ローレライ 著者:ウィルボーン様

ツヴァイクを追って地下坑道を抜けると、思いのほか広い空間に出た。側面を支える柱は
シンダル特有の精緻な細工が施されており、中央には祭壇らしき台が確認できた。
「ふむ、思ったとおり、この遺跡はシンダルの中期頃の様式で建てられたようだな」
柱の一本一本を調べながら、ツヴァイクは呟く。
シンダル中期。耳慣れぬ言葉に、ローレライは鋭く反応した。
「それはどういうことだっ」
「言葉の通りさ。知りたきゃ自分で調べるといい。まあ、君のような遊び半分の自称冒険者には、
百年かかっても分からないだろうがね」
振り返ったツヴァイクは、勝手について来たローレライに半ばウンザリしつつも
切り捨てるように言い放ち、後は存在を無視するかのように再び柱や床を丹念に調べ始めた。
毎度のこととはいえ、そのあまりな言い草に、ローレライはカッとなった。
「遊び半分じゃない!今の言葉を訂正しろ」
「じゃあ聞くがね」
ツヴァイクはローレライに向き直り、メガネを指で押さえた。人をバカにしたり蔑んだり
する時のクセだ。ローレライもひるまず肩を反らせる。
「何だって君みたいな若い娘がシンダル遺跡を血眼になって探すんだ」
「それは…」
「どうせお嬢さんの道楽か何かだろう?君、妙に身なりがいいけれど」
メガネの奥の瞳が、値踏みするかのように見つめる。ツヴァイクがここまで他者に関心を
示すのは初めてのことだった。自分の興味のあること以外は、誰でも、何でも、その辺の
石ころと同じだと思っているような男だ。
「道楽なんかじゃない。わたしは、ただ知りたいだけだ」
「それならば自分でなんとかしたまえ」

ぴしゃりと言って、ツヴァイクは再び作業に戻った。何かを発見したようで、
床の一部の模様を凝視し、鞄からボロボロの手帳を取り出して見比べて始める。
そして、静かに手帳をたたんで再び振り返った。
「ローレライ」
「な、なんだ」
振り返ったツヴァイクはローレライに近寄り、くいっと顎を持ち上げた。
「ここは一つ、等価交換といこうじゃないか。君が、貴重な情報と交換できる
何かを持っていれば、教えてやらないことはない」
「交換と言われても、わたしは…」
ローレライは顎に触れた手を払い、困惑を隠すかのように俯いた。お金の持ち合わせは
あまりないし、価値のあるような宝飾品も身につけていない。だいたい、ツヴァイクが
そんなものに価値を見出すとは思えない。
「君、十六歳だっけ?その若さは、十分交換の対象になると思わないか?」
「…どういうこと?」
「そういうことさ」
ツヴァイクが鼻で笑った。何を意味するか理解した瞬間、全身から血の気が引いた。
裏切られたような気がした。気に食わないところもあるが、それなりの分別を持って
いる男だと信じていた。力や権力でねじ伏せたりするバカな男ではないと…。
「受けるも受けないも、君の自由だ。どうする」
「…そうしたら、あんたの知っていることを教えてくれるの?」
「ああ、約束しよう」

少しの静寂の後、ローレライは迷いを振り切るように腰につけていたポーチを外し、
ベストの紐を解き始めた。
「おいおい何をするんだ」
「早く済ませましょう。時間がもったいない」
「落ち着きたまえ。潔いのは結構だがね」
ツヴァイクは苦笑いを浮かべ、ローレライを軽々と抱き上げた。自らのマントを祭壇に
広げ、そこにローレライを横たえる。
「儀式のつもりか?悪趣味だ」
「言っておくが同意の上だ。あまりゴチャゴチャ言わんでもらいたいね」
分かったわ、と言う代わりに目をつぶった。唇に暖かいものが触れる。初めての感触に、
ローレライは眉を寄せた。
「ん…っ、ふぅ」
ツヴァイクのキスは存外に優しく、ローレライは力を抜いて身を任せた。これは契約なのだ。
そう自分に言い聞かせて。キスを交わしながら、ツヴァイクは器用にベストの紐を解いていく。
中に着込んだニットを捲り上げられ、インクと土の匂いを吸った掌が、じかに肌に触れた。
「…っ!」
驚いて口を開こうとした途端、舌が差し込まれた。
「あ…ぅ…っ」
口の中を激しく蹂躙され、逃げ場を失った舌に容赦なく絡み付いてくる。嚥下できない唾液が、
だらしなく口元から溢れていく。最後に己の唾液を注ぎ込み、ツヴァイクはようやく唇から
離れた。
そしてそのまま首筋に這わせ、徐々に降りていく。首筋から鎖骨、そして柔らかな
乳房へと。未だ成長段階にある、控えめながらも形の整った乳房は緊張のためか、その頂部分を
鋭く尖らせている。

片方の乳房に舌を這わせ、もう片方の乳房を指でこねる。ローレライは初めての感覚に、
我慢できずに甲高い声を上げる。
「ほう…。いつもは怒ってばかりの君だが、そんなかわいい声も出せるのか」
「うるさいっ!キサマが…あぁッ!あ、ン…ッ」
印をつけられるたび、ローレライは鮮魚のように激しくのたうつ。
ツヴァイクは片手を下腹部に伸ばした。ローレライはすでに抵抗する気力もないのか、アッサリと
足を開いた。ファスナーを下ろして、下着を脱がせてじかに触れると、そこはかすかに
湿り気を帯びている。
「いやだ、なんだか、ヘンな感じ…」
軽く触れるだけだが、ローレライが体をくねらせる。ツヴァイクは亀裂に沿って指を動かしていたが、
水気がまとわりつき始めたところで、中指を挿入してみた。
「!!」
異物感に驚いたローレライは逃げ出そうと体を動かすが、ツヴァイクは体重をかけてのしかかり、
動きを封じた。指を徐々に動かすと、ローレライはすがるものを求めるかのように、ツヴァイクの
首に腕を回し、自ら体を密着させてきた。
二人は吸い寄せられるように唇を重ね、お互いを貪るような深いキスを交わした。
ツヴァイクはキスを交わしながら、着ているものを脱ぎ捨てた。すでに痛いほどそそり立っている
それを、ゆっくりとローレライの秘所に近づけ、ゆっくりと挿入した。
ローレライの表情が苦悶に歪む。だが、止められなくなったツヴァイクは、一気に貫いた。
「……っ!!!」
体を縦に引き裂かれるような激痛が走った。自分の中に、ツヴァイクを感じる。痛くてたまらないが、
不思議と体の奥のから、何かが満たされていくような気がした。
目を開けると、ツヴァイクと目が合った。トレードマークのメガネを外しており、今まで見た中で
一番穏やかで、優しそうな顔をしている。
顔が近づいてきて、唇が重なる。それが合図であるかのように、ツヴァイクが腰を動かし始めた。
最初はゆっくり、徐々に激しく。挿入の痛みは若干薄れてきたものの、再び痛みが体を襲い、
ローレライはうめき声を上げながら必死でツヴァイクにしがみついた。
やがて、ツヴァイクは小さく呻いてローレライの中に全てを解き放った。

いつの間にか寝ていたようだった。ローレライが目を覚ますと、ツヴァイクの腕の中にいた。
まるで恋人どうしのように。そう考えてしまい、ローレライは一人赤面した。これは契約なんだ。
そうでなかったら、父親のように年の離れたこんな傲慢の男に…。
ローレライは起き上がり、腹部の鈍痛を堪えて着替えを始めた。祭壇に敷かれたツヴァイクの
マントには、己の破瓜の血が、染みを作っていた。
「ん…。起きたのかい」
目をこすり、大きく伸びをして起き上がる。
「約束だ。お前が知っていることを教えろ」
顔をあわせるのが気まずくて、そっぽを向いたまま冷たく言うと、後ろから苦笑いとともに、
衣擦れの音が聞こえた。
「来たまえ」
着替えの終えたツヴァイクは、赤黒い染みのついたマントを手に、ローレライを手招きした。
「ちょっと!何を持っている!捨てろ!」
「シンダルの奇蹟を見せてやろうというのだから、大人しくしていろ」
ローレライの文句に耳を貸さず、ツヴァイクは血のついた部分を精緻な文様の施してある床に
押し当てた。一瞬の沈黙の後、床がぼうっと光り、細工の合間から文字が浮き出してきた。
「…ビンゴだな」
「どういうことだ?」
「シンダル中期は特に処女信仰の強い時代でね。破瓜の血をもって文字が浮き出るという秘術が
あったようだ」

「だから、わたしと…?」
「ふん、当たり前だ」
あっけに取られるローレライを見て、ツヴァイクは決まり悪そうに咳払いをした。
男のゲスな欲望に駆られたわけではなかったんだ…。等価交換、という意味がようやく理解できた。
利用されたことは腹立たしいが、それでも、男の欲望のために汚されるよりはよっぽどいい。
ローレライは気の抜けたようにへたり込んだ。
「本気かと、思った」
「バカにするんじゃない。そうじゃなかったら、君みたいな子供に手を出すか」
「子供!?」
カッとなったローレライは、立ち上がりざまにツヴァイクの横っ面を張り飛ばした。文字の解析に
夢中になっていたツヴァイクは、まともに食らって横転した。
「ロ、ローレライ、君…」
「うるさいっ!子供扱いするんじゃない!」
「まともに鼻にヒットしたよ。君、もう少し加減てものをだね…」
鼻血を抑えながら立ち上がる。と、抑えた手の隙間から鮮血が溢れ、床に滴り落ちた。
と、床が光り文字が浮き出した。
「……」
「……」
「…おい。」
「…血なら、何でもいいのかもしれない」
「貴様!このヘボ学者!」
「ヘボとは失敬な!訂正したまえ!」
…考古学者バカ一代と自称冒険家の少女の痴話喧嘩は、しばらく遺跡にこだましたという…。

おしまい

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